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姉枕
第1章 東京……十八歳
 姉さんの長いまつげが、かすかに震えていた。久しぶりに見る姉さんの寝顔だ。
「ねえ、まだ寝ないで」
「ええ? どうして?」
 やっぱり姉さんは全然寝ていなかった。面倒臭そうに目を開けて、僕の目を覗き込む。
「なんか、もったいない。せっかく姉さんと一緒やのに。いま何時やろ?」
「たぶん、二時ぐらいやで。もったいなくないよ。明日も一緒に過ごせるねんから」
「でも、明日の夜にはまたバスで帰らないといけないから。夜、一緒に寝られるのは今夜だけやん」
 拗ねたように僕は言い、それから一秒でもこの時間を惜しむように、姉さんを抱き寄せた。
「もう……」
 裸で抱き合ってはいるけど、姉さんはいつもの姉さんに戻っていて、ワガママな僕に呆れていた。
「電気つけてもええ?」
「あかん。余計に眠れなくなる。なんで、明るくしたいんや?」
「姉さんの部屋、まだちゃんと見てへんから」
「朝でええやろ?」
 モグモグと口を動かしながら、ふたたび姉さんが狸寝入りを始めようとした。
「イヤや。いま見たい」
 僕は僕で、姉さんにワガママをいうことに一種の快感を覚えていた。
「もう! ここの電気でいいか?」
 ベッドの上に、傘のついたランプがあった。姉さんは片手を伸ばして、手探りで、ランプから垂れ下がっている紐を引いた。
 ぼぉ、と暖色の光が広がり、うっすらとだが、部屋の中の様子がわかった。六畳もなさそうだけど、天井が高くて、壁も白いせいか、広い空間に見えた。天井には球体の可愛らしい照明がぶら下がっていた。部屋の三分の一はベッドで占められていたが、残りのスペースには折りたたみ式の白い机と十四型のブラウン管テレビ、白を基調としたお姫様チックな本棚もあった。窓辺にはボックスタイプの棚が一個置いてあり、名前は知らないけど紫色の花が飾られていた。
「すごい。これ、全部、姉さんが集めたんか?」
「そうやで」
 一年前まで姉さんも過ごしていた実家とは比べものにならない、お洒落な女の子の部屋で、これが姉さんのしたかった生活なのかと、僕は感動しつつも、少し嫉妬に似た感情も覚えた。
「ハシゴもある……」
「そう。あれがロフト。屋根裏みたいなもの」
 相変わらず面倒臭そうに答えながら、姉さんは甘える猫のように、裸体をなすりつけてくる。
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