この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
姉枕
第1章 東京……十八歳
「おお、手紙に書いてあったやつか。これがロフトかぁ。上にのぼってみたい」
「だめ。もう遅いんだから、早く寝なさい」
「ええ~。朝になったら、のぼってもいい?」
「ええよ。はい、寝る」
寝ない子供を叱りつける母親のような言い方で、僕はあらためて思い出した。
そう、姉さんはずっと僕の母親代わりでもあった。
「待って、姉さん。ひとつ相談したいこともあったんや」
「え? なに?」
「……母さんのことで」
一瞬にして、姉さんの表情がこわばった。あの事件以降、手紙でも一切、母親のことは触れないようにしていた。姉さんに嫌なことを思い出させたくないからだ。手紙には書きたくなかったから、会ったら直接、相談しようと思っていた。これが、東京に来た二つ目の理由であった。
「お母さんが……どうかしたの?」
怒りなのか恐怖なのか、姉さんの声は震えていた。
「どうかしたというか、帰ってこないんだ」
「そんなのいつものことでしょ」
吐き捨てるように姉さんは言った。
「うん。だけど、今回は本当に帰ってこないんだよ。いつもは長くても二週間に一度は、顔を出していたのに……」
「どれぐらい帰ってきていないの?」
「えっと、最後に見たのが七月の半ばかな」
「……二ヶ月かぁ。確かに長いね。でも、以前にも一ヶ月ぐらい帰ってこないときがあったで」
「そうやったっけ?」
「うん。私が高校生の頃やから、もう五~六年前ぐらいやけど。あんた、覚えてへんの?」
「覚えてへん……いないのが、普通になってたからなぁ」
「そのときも、男の家に入り浸っていたんやけど……まあ、あんな女やから、一ヶ月で追い出されたんやろうな。今回もそのうち、帰ってくると思うで」
「そっか。じゃあ、もう少し待ってみるよ。母さんがいなくても、全然問題ないし。なんとなく、何かあったのかもって心配になっていたんやけど、たぶん大丈夫やな」
正直、どこかで死んでいるのではないか、とまで思っていたほどだ。
「……そうやね。来月になっても帰ってこなかったら、また教えて。じゃあ、今度こそほんまに寝るで」
言いながら姉さんはまたも手探りで、ベッドランプの紐を引っ張った。
「だめ。もう遅いんだから、早く寝なさい」
「ええ~。朝になったら、のぼってもいい?」
「ええよ。はい、寝る」
寝ない子供を叱りつける母親のような言い方で、僕はあらためて思い出した。
そう、姉さんはずっと僕の母親代わりでもあった。
「待って、姉さん。ひとつ相談したいこともあったんや」
「え? なに?」
「……母さんのことで」
一瞬にして、姉さんの表情がこわばった。あの事件以降、手紙でも一切、母親のことは触れないようにしていた。姉さんに嫌なことを思い出させたくないからだ。手紙には書きたくなかったから、会ったら直接、相談しようと思っていた。これが、東京に来た二つ目の理由であった。
「お母さんが……どうかしたの?」
怒りなのか恐怖なのか、姉さんの声は震えていた。
「どうかしたというか、帰ってこないんだ」
「そんなのいつものことでしょ」
吐き捨てるように姉さんは言った。
「うん。だけど、今回は本当に帰ってこないんだよ。いつもは長くても二週間に一度は、顔を出していたのに……」
「どれぐらい帰ってきていないの?」
「えっと、最後に見たのが七月の半ばかな」
「……二ヶ月かぁ。確かに長いね。でも、以前にも一ヶ月ぐらい帰ってこないときがあったで」
「そうやったっけ?」
「うん。私が高校生の頃やから、もう五~六年前ぐらいやけど。あんた、覚えてへんの?」
「覚えてへん……いないのが、普通になってたからなぁ」
「そのときも、男の家に入り浸っていたんやけど……まあ、あんな女やから、一ヶ月で追い出されたんやろうな。今回もそのうち、帰ってくると思うで」
「そっか。じゃあ、もう少し待ってみるよ。母さんがいなくても、全然問題ないし。なんとなく、何かあったのかもって心配になっていたんやけど、たぶん大丈夫やな」
正直、どこかで死んでいるのではないか、とまで思っていたほどだ。
「……そうやね。来月になっても帰ってこなかったら、また教えて。じゃあ、今度こそほんまに寝るで」
言いながら姉さんはまたも手探りで、ベッドランプの紐を引っ張った。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


