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白衣を脱いだら~熟れた蜜の囁き
第7章 昔語り(1)
「スッゴいショックだったしビックリした。少しの間、ソファーに座ってたけど、涙出て来てね。そのまま、彼のアパートを飛び出してタクシーに乗って自宅に帰ったの。もうそれっきり。彼から何度も連絡あったけど『もう会わない。』って言ってやったわ」

美香はそこで言葉を切り、ゆっくりと昭吾の方を見た。

目元に、遠い痛みの残滓のようなものが揺れている。しかしその瞳は、今、目の前の男に向けられ、穏やかに潤んでいた。

昭吾の指が、パンスト越しに彼女の最も敏感な部分を撫でる。美香は小さく息を吐き、腰をわずかに動かした。ジャズのピアノが、その動きに合わせて一度だけ高く上がり、すぐに沈んだ。

「昭吾くん、興奮した?入れたくなってきた?」

「ええ、はい」

「じゃあ、ラブホテル、行こうっか?」

「今日はドライブだけのはずじゃ…って美香さん、言いましたよね」

「何やねん…真に受けちゃって。今日はエッチは無しなの?…分かったわ」

「…」

「って嘘よ。分かってるって。でも、続きがあるの。聞いてよ?」

美香の顔は、話す内容と、いま指先で感じている感触とのあいだで、微妙に揺れていた。

目元はほとんど動いていない。まぶたは薄く、十月の午後の光を受けてわずかに艶を帯び、視線は前方の風景と、時折こちらへ戻ってくる視線とのあいだをゆっくりと往復している。瞳の色は黒に近いが、光の加減で深い琥珀色に見える瞬間がある。その瞬間、遠い記憶を語っているはずの目が、急に現在の温度を帯びる。

口元は閉じたまま、しかし完全に力を抜いているわけではない。上唇がぷっくらと厚く、下唇との境目に細い影を落としている。

過去の痛みを口にするとき、その影が少し深くなる。声は明るく保たれているのに、唇の端だけが、ごく小さく引き結ばれる。その引き結びはすぐに解け、代わりに、息を吐くたびに下唇がわずかに開く。湿り気を帯びた内側が一瞬だけ光る。

頬はチークの薄い赤みを差している。その赤みは均一ではなく、頬骨の高い部分だけが淡く輝いている。

美香の表情は「語っている顔」と「感じている顔」が、薄い膜一枚を隔てて重なっている。どちらが表でどちらが裏なのか、はっきりしない。ジャズの低い音が車内を満たすなか、その曖昧な重なりだけが、はっきりとそこにあった。



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