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白衣を脱いだら~熟れた蜜の囁き
第9章 昔語り(3)
「私の実家は香川なの。今でも妹がそこに住んでいて……といっても、香川生まれの人のところに嫁いだだけなんだけれどね」
美香はそう言って、遠くを見るような、あるいは自分の記憶のなかをそっと手探るような目を した。
大阪の喧騒と、昭吾が暮らすアスファルトの街とは違い、美香の故郷には車のハンドルを少し切るだけで、いつでも波の音が迎えに来てくれる青い海があった。
お盆の時期になると、お墓参りを兼ねて妹の家を訪ねるのだという。
小高い丘の上にある墓地へ登っていくと、そこからは遮るもののない、ただどこまでも真っ青な瀬戸の海が一望できた。その眩しすぎるほどの光景を眺めていると、なぜか遠い南の島――あのモルディブの記憶が、ふいに胸のなかに蘇ってくるのだと美香は言った。
もちろん、海の青さも、砂の感触も、あちらとこちらでは何もかもが違う。けれど、どうしようもなく広大な水面を前にしたときの圧倒的な静けさだけは、不思議とよく似ているのだった。
「ねえ、写真、見せてあげようか?」
美香はバッグから取り出したスマートフォンを私に差し出し、画面をのぞき込ませた。そこには、鮮やかなゼブラ柄の水着に身を包んだ美香が、実の妹たちと並んで笑っている写真があった。
夏の強い光を全身に浴びた彼女たちの肌は健康的に焼けていて、波音のざわめきまでが聞こえてきそうな一枚だった。
「この人が妹さん? このトラ柄の水着の人?」
「そうよ。私たち、顔なんて全然似てないでしょう? 彼女は母親似で、私は父親似だから」
画面をスクロールしていくと、日差しのなかに佇む家族の姿が次々と現れた。
「じゃあ、この人が妹の旦那さん?」
「ううん、旦那はこっち。こっちはね、近所に住むお兄ちゃん、といっても実の兄じゃなくて、昔、よく遊んでくれた年上の人なのよ」
そんな他愛のない、日常の断片のような会話を交わしているうちに、嵐山を出た私たちの車は、ゆっくりとホテルの駐車場へと吸い込まれていった。
Mさんと彼女がどうして別れることになったのか、その肝腎な理由は、結局最後まで聞けずじまいだった。
「もう、そんなの、どうでもいいことよ」
美香はそう言って、ふわりと柔らかく笑った。長いまつ毛を伏せたその瞳の端に、年の重ね方が生んだ微かな、けれど愛おしい小じわが寄る。美香はそれから再び昭吾をまっすぐに見つめ返した。
美香はそう言って、遠くを見るような、あるいは自分の記憶のなかをそっと手探るような目を した。
大阪の喧騒と、昭吾が暮らすアスファルトの街とは違い、美香の故郷には車のハンドルを少し切るだけで、いつでも波の音が迎えに来てくれる青い海があった。
お盆の時期になると、お墓参りを兼ねて妹の家を訪ねるのだという。
小高い丘の上にある墓地へ登っていくと、そこからは遮るもののない、ただどこまでも真っ青な瀬戸の海が一望できた。その眩しすぎるほどの光景を眺めていると、なぜか遠い南の島――あのモルディブの記憶が、ふいに胸のなかに蘇ってくるのだと美香は言った。
もちろん、海の青さも、砂の感触も、あちらとこちらでは何もかもが違う。けれど、どうしようもなく広大な水面を前にしたときの圧倒的な静けさだけは、不思議とよく似ているのだった。
「ねえ、写真、見せてあげようか?」
美香はバッグから取り出したスマートフォンを私に差し出し、画面をのぞき込ませた。そこには、鮮やかなゼブラ柄の水着に身を包んだ美香が、実の妹たちと並んで笑っている写真があった。
夏の強い光を全身に浴びた彼女たちの肌は健康的に焼けていて、波音のざわめきまでが聞こえてきそうな一枚だった。
「この人が妹さん? このトラ柄の水着の人?」
「そうよ。私たち、顔なんて全然似てないでしょう? 彼女は母親似で、私は父親似だから」
画面をスクロールしていくと、日差しのなかに佇む家族の姿が次々と現れた。
「じゃあ、この人が妹の旦那さん?」
「ううん、旦那はこっち。こっちはね、近所に住むお兄ちゃん、といっても実の兄じゃなくて、昔、よく遊んでくれた年上の人なのよ」
そんな他愛のない、日常の断片のような会話を交わしているうちに、嵐山を出た私たちの車は、ゆっくりとホテルの駐車場へと吸い込まれていった。
Mさんと彼女がどうして別れることになったのか、その肝腎な理由は、結局最後まで聞けずじまいだった。
「もう、そんなの、どうでもいいことよ」
美香はそう言って、ふわりと柔らかく笑った。長いまつ毛を伏せたその瞳の端に、年の重ね方が生んだ微かな、けれど愛おしい小じわが寄る。美香はそれから再び昭吾をまっすぐに見つめ返した。

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