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キウイ基地ーポルノ女優と過ごした夏
第1章 こんにゃくと、レジのお姉さん
 祐介も戻ろうかと一瞬思ったが、お姉さんは這いつくばりながら、顔をあげてきた。祐介を見つめるその瞳は、怒っているようにも涙ぐんでいるようにも見えた。とにかく強い視線だった。
 すでに年配の女性店員はお姉さんのもとに辿り着いていて、背中をさすっている。
 きっと大丈夫。もう他の人がレジのお姉さんを介抱しているのだから、僕は何も悪くない。
 早く、キウイ基地に帰ろう。



 キウイ基地──。キウイ基地は祐介の生家から歩いて十分ほどの裏山の中腹にある。裏山は先祖代々受け継がれているもので、標高は二百メートルほど。かつては山菜採りもしていたそうだが、いまは完全に放置されて、荒れ放題だ。「売っても二束三文にしかならない」と祖父も言っていた。
 祖父は父方のおじいちゃんで、定年まで国鉄で働いていた鉄道員だ。絵に描いたような頑固者で無愛想だから、祐介はあまり好きではない。ちなみに、いつも優しかった祖母は祐介が小学二年生の時に亡くなっている。さらにいえば、祐介が中学生に上がった時、町の役場で働いていた父親も病気で死んだ。
 だから、いまは父方の祖父と祐介の母親、そして祐介の三人暮らしだ。
 農協のスーパーから逃げてきたその時もまっすぐ家には帰らず、祐介はチャリンコを飛ばして、キウイ基地のある裏山の麓まで戻ってきた。
 このあたりは民家もなく、ザリガニの宝庫と呼ばれる小さな川がある程度で、あとは見渡す限り、田畑が広がっているだけだ。
 ところどころ人っぽいものも見えるけど、それは案山子(かかし)だ。
 登山口は祐介でなければどこから入ればいいのかわからないほど獣道と化している。
 山中はシイやカシ、ブナなどの陰樹がうっそうと繁っているだけで、日中であっても薄暗い。勾配もけっこうきつく、大きな石や倒木も多い。行く手を阻むように草木も生い茂っている。それらを乗り越えて、登ること十数分。
 突然、空が拓ける。ここは裏山の中で唯一の見晴らしの良い場所で、全景ではないものの、二十数年前に作られた巨大なダム湖も見下ろすことができる。
 ここがキウイ基地である。
 祐介がキウイ基地と呼んでいる理由は単純で、ここには一本のキウイフルーツの木が立っているからだ。これは祖母が生前に植えたものである。
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