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僕の愛する未亡人
第19章 社内秘 飯塚冴子②
「だよね………ジャケットのボタン……留め直してたから……」

その事実を聞いても、理央は取り乱さない。
ショックを隠しきれないとはいえ、どこか冷静な様子の理央を見て、知親は複雑な気持ちになる。
ただの後輩、という距離ではない。
踏み込むべきではないと分かっていながら、知親は、理央の横顔から目を離せずにいた。

「丁寧に誘って貰えたらねえ? いくらでもするのに」

理央の耳元に顔を近づけて、冴子はあくまで軽く、冗談めかして言い放つ。
吐息がかかるほどの距離。それだけで、十分すぎるほどだった。
冴子が性に奔放なのだと、理央は知っているのだと分かり、さらにその距離の近さを知親は目の当たりにしてしまった。

「ちょ、ねえっ、飯塚さんの馬鹿っっ」

耳元を手で覆って、理央は顔を真っ赤にさせていた。
冴子がこんな風に男性社員をからかうところを見たことがなかった。
――当たり前だ。
セクハラをした、などというありもしない噂のせいで、彼女は居場所を奪われたのだから。

冴子はそんなにも、この男のことを信頼しているというのか。

「――というわけで。切り替えて仕事します。特に彼について、何かして欲しいとかはありません。あたしも何があったか言いたくないし」

「わかった」

冴子の発言に、急に現実に引き戻される。

「佐藤くん、外回りの準備しないとね。お手柄の後輩に、あとでコーヒー買ったげる」

「えっ、やったあ」

ぽんぽん、と理央の肩を叩く冴子。
冴子が性に奔放なことなど、十五年も付き合いのある知親は分かりきってきていた。
だがあの噂云々の前に、そもそも気軽に男性社員の肩になど触ることはなかった。
仲が良さそうに歩く二人を見つめながら、ふぅ、と知親はため息をついた。


*

いつも外回りを終え、会社に向かう時、冴子はコンビニの駐車場に車を停めて理央にコーヒーを買わせる。
少しばかり二人で休憩をしてから、会社に戻るのが習慣になっていた。
いつもブラックコーヒーを飲む冴子が珍しく微糖のコーヒーを頼む。
疲れているのだろうと、理央は冴子に手渡された現金でなく、自分の金でお菓子なども買い込む。

「お金、返します。今日はいいですよ。疲れてるでしょ」
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