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僕の愛する未亡人
第19章 社内秘 飯塚冴子②
「ん、もう……何であたしにこんなことさせんのよ、タカギのバカ」

いつもいるオフィスのフロアの下――先日、佳織と交わったトイレのある階。
冴子は、広報宣伝部が展示用の服を保管する倉庫の中で、ひとり呟いた。
現在、十九時。
この階には、この倉庫の他には保管庫や会議室などがあるくらいで、今、おそらく冴子しかいない。

冴子がタカギと呼ぶ人物は、高木知親(たかぎともちか)。
以前、冴子が実店舗で働いていた時、他の店舗で店長を務めていた同期だ。
年齢は冴子のひとつ上だが、入社年度が一緒で、十五年近くの付き合いになる。

展示で扱ったであろう服を畳み、丁寧にケースの中にしまいながら、ふと昔のことを思い出していた。
十年前――あの理不尽な人事異動が決まりかけたとき。
知親は冴子が異動になるなら、自分も本社に異動すると申し出たのだった。
彼が店長を務める店舗の売上は、彼の手腕で支えられていたといっても過言ではない。
それほどの男が、何の見返りも求めずにそう言ったのだ。
あのときから冴子は、彼に頭が上がらない。尊敬する同期として、これからもずっと付き合い続けるだろう。

「――飯塚さん、おられますか?」

作業をしていると、倉庫の入口が開き、そのあと声がした。

コツコツと革靴が鳴る音。

「あ…はい、あの……」

あまり、聞き覚えのない声だった。冴子は戸惑いながら返事をした。
ひょこっと棚の奥から顔を出したのは、広報宣伝部の、誰だったか――

「高木さんからメール来てて、飯塚さんを手伝うようにと、あの……」

「そうなんですか。こんな時間まで残業するなら自分が残ればいいのに」

初めて話す相手なのに、クールに冴子は答える。

「あ、僕、今年度入社した大森冬馬(おおもりとうま)と申します」

頭をぺこぺこと何度も下げながら、ダンボールの中に詰まった展示用の服に大森と名乗った男は手を伸ばす。

冴子の側によると、ふわりと香る柑橘系の匂い。
思わず、冬馬の胸が高鳴った。

知らぬ男が手伝いにきたというのに、冴子は淡々と作業を続けている。だが、冬馬はちらちらと冴子に視線を送った。

知親と同期とは聞いていた。すると、自分より十近く年上で、大人の女性――
濃紺の細身のセットアップのスーツ。
フリルのついたシャツは首元を覆い隠し、彼女の色気を意識的に抑えているように見えた。
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