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切り裂かれた衣
第3章 衣美と匠~共に過ごした日々~
 家庭教師を始めて三ヶ月、冬が近づく頃、衣美と匠の授業は順調に進んでいた。ある火曜の授業中、衣美はセーターとデニムのコーディネートで佐藤家にやってきた。

「うん、そうだね。そこはそれで大丈夫だよ」


 セーターの袖をまくり、勉強を教える衣美の声は、いつも通り明るかった。匠が机に広げたノートに文字を書く時、衣美の指がペンを軽く叩く。その小さな仕草が、匠をまたドキドキさせた。

「お兄ちゃん、この問題はこう考えた方が楽だよ」

 衣美が匠のノートに手を伸ばす。衣美の腕が匠の腕に軽く触れ、匠は「う、うん…わかった」と慌てて答え、顔を赤くした。

「やった! 完璧!」

 衣美は笑顔で手を叩いた。

「あの……渡邉さん」

 親しくなったことで、匠は衣美を「先生」から「渡邉さん」と呼ぶようになっていた。

「ん?どうしたの?」

 衣美が笑顔のまま聞くと匠はペンを置いた。

「あの……俺……」

「……?」

 しばらくの沈黙と見つめ合う。二人。匠は何かを言いかけたが

「やっぱりいいです」とペンをまた手に取った。

「何々?気になるよ」

 衣美が聞いても匠は何でもないとペンを走らせた。

「まったくもう……」

 衣美は匠の部屋の本棚に目を向けた。サッカーグッズで溢れてはいるがなかなかの読書家でもあるようだ。

「お兄ちゃんさ……本とか読むの好きなの?」

「……うん、サッカーは父さん、本は母さんの影響で」

「そっか、いいね。運動もできるし、頭もいいし。モテるでしょ」

「そ、そんなことないですよ!!」

 どこかぶっきらぼうなトーンで匠は顔を背けた。

「あ~~好きな子でもいるな~」

「べ、勉強に集中できないんでやめてください!!」

「ほら、先生に話してごらん。恋の家庭教師もしてあげるからさ」

「本当に何でもないですから!!」

 衣美が楽しそうに匠のことをからかい、匠は顔を真っ赤にしながらもどこか嬉しそうな表情をしていた。

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