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切り裂かれた衣
第3章 衣美と匠~共に過ごした日々~
 家庭教師を始めて一ヶ月ほど経ったある金曜日、衣美は陽子に夕食に誘われた。佐藤家の父、健一の誕生日で、家族全員で祝う予定とのことだった。
 
「え、いいんですか? お邪魔じゃないでしょうか」

 衣美は遠慮したが、陽子は「全然!」と笑う。

「 息子達も喜びますから」

 陽子は優しそうに笑った。

「……そうですか。では、ありがとうございます。よろしくお願いします」


 夕飯は手作りのピザとサラダ、お肉料理やケーキ。リビングのテーブルに並ぶ料理に、弟たちが「やったー!」と大騒ぎだった。

 衣美はせめてもと陽子を手伝った。

「いつも匠がお世話になってます」

 仕事を終えて帰ってきた健一から挨拶をされて、衣美も「私こそ、お世話になってます」と頭を下げた。


 食卓では、弟たちが「父さん、何歳?」「秘密!」と賑やかに騒ぐ中で衣美も笑いながら会話に加わった。

「わ、すごい!」

 衣美が食べたピザのチーズが伸びる。みんなが笑う。ソファに軽く寄りかかり、足を揃えて座りながら衣美は匠の弟達と楽しそうに話した。

 ふと視線を感じて横を見ると匠と目が合い、匠が視線を反らした。衣美はそんな匠を見て、また頬を緩めた。

「先生も歌ってよ」

 亮太の無邪気な提案で、家族全員で「ハッピーバースデー」を歌い、健一が照れながらロウソクを吹き消す。

「健一さん、おめでとうございます!」

 衣美も拍手すると、家族全員が笑顔になった。

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