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切り裂かれた衣
第3章 衣美と匠~共に過ごした日々~
 家庭教師の契約は半年。匠の成績は安定し、衣美の仕事も終了となった。最後の授業の日、衣美はいつもの笑顔で拍手をした。

「ほんと頑張ったね! 絶対いい大学行けるよ!」

「衣美さんのおかげです…ありがとう」

 匠は少し寂しそうに言った。リビングでのお茶の時間、陽子は「渡邉さん、ほんとありがとう。いつでも遊びに来てね!」と言うと、弟たちが「先生、また来て!」「トランプやろう!」と騒いだ。

「ありがとうございます」

 暖かい言葉に衣美も涙を流した。最後に簡素ではあるがお別れ会を開いてくれた。

 別れの時、衣美が玄関でスニーカーを履こうとしていると、匠に声をかけられて振り向いた。

「渡邉さん…ほんと、ありがとう。俺、忘れないです」

「匠君、私も楽しかったよ。ありがとう。またどこかで会えたらいいね」

「うん…」

 衣美が笑顔を向けると匠も頷いた。


──────────

(考えすぎかな……)

 家庭教師時代のことを思い出していると、あの頃から匠は自分に思いを寄せてくれていたのかもしれないと衣美は思った。

「また来てね」

 そう言われていたのにあれかは佐藤家には一度も行っていなかった。あれほどお世話になったのに過去の人達にしてしまっていた。

「そっか……あの時のお兄ちゃんが……」

 また信号が赤になり、ブレーキを踏む。


「私に告白……あんな大勢の前で……ふふっ」

 衣美は幸せそうに微笑みながら前を見据えた。

「大人の男になっちゃって……もう……」

 ずっと思い描いていた王子様はかつての教え子とは人生はわからない。

 衣美にとって初めての彼氏。特別な存在。胸がドキドキとしていた。

 家庭教師の時は匠のことをドキドキとさせてばかりだったのだろう。けれど──

(今度は私をキュンキュンさせてよ)

 青になり、衣美はアクセルを踏む。

 愛しの王子様の元へ。

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