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切り裂かれた衣
第3章 衣美と匠~共に過ごした日々~
 家庭教師の仕事は週に二回だった。火曜と金曜の夕方。衣美は毎回、佐藤家に明るい空気を持ち込んだ。

 衣美は机にノートを広げ、ペンをくるりと回しながら説明する。彼女が座る時、チノパンの裾が少し上がり、細い足首が見えた。匠はその瞬間、教科書に目を落とし、心臓がドキドキさせていた。

「ほら、この問題、解いてみて。わからなかったらヒント出すよ」

「うん、やってみる」

 衣美の微笑みに匠はペンを握る。彼女が隣でノートを覗き込む時、髪が肩から滑り落ち、甘い香りがふわりと漂った。

「集中……集中……」

 そう呟く匠の横顔を衣美は微笑みながら見つめていた。

「うん、完璧! 流石はお兄ちゃん。頭いいね!」


 衣美が褒めると、匠は「そんなこと…ないよ」と照れた。

「でも、そのお兄ちゃんって……先生は弟達じゃないのに」

「お兄ちゃんにお兄ちゃんって言ってもいいでしょ」


 授業後は、リビングでのお茶の時間だ。

「先生、匠、ちゃんと勉強してますか?」

 陽子も一緒にお茶をしながら談笑する。衣美はカップを置きながら「はい」と頷いた。


「私、感心してるんです。本当に頭がいいと思いますよ」


「先生……褒めすぎ」

 匠はそう呟くが、内心では嬉しさがこみ上げていた。

 弟たちも衣美に懐き、亮太は「先生、宿題見て!」と算数のノートを持ってくる。衣美はソファに座り、亮太の隣で丁寧に教えることもあった。

 彼女がノートに赤ペンで丸をつける時、髪を耳にかける仕草に、匠はまた視線を奪われた。

「亮太、先生に甘えすぎ!」

 悠斗がとからかうと、衣美は「いいよ、いいよ! 亮太君、頑張ってるもん」と笑った。

「悠斗君と翔君のも良かったら見るよ。私の特別サービス!けど、お兄ちゃんの時間がなくならない程度なのは許してね」


 その優しさに、佐藤家は癒されていた。


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