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切り裂かれた衣
第3章 衣美と匠~共に過ごした日々~
「お疲れ様です。少し休憩してはどうですか?」

 九十分ほど勉強した頃に陽子が呼びに来た。
 リビングに降りると、テーブルには手作りのクッキーとジュースが並んでいた。匠の弟たち──中学生の悠斗(十四歳)、小学生の翔(十一歳)、亮太(八歳)──がソファで騒がしく遊んでいた。

「先生、クッキー食べて!お母さんのやつ、めっちゃ美味しいよ!」

 亮太が無邪気に言うと、衣美はニコニコと笑った。

「ありがとう! いただくね」

 衣美は笑顔でクッキーを手に取ってクッキーをかじった。横顔に視線を感じて匠に視線を向けると匠がボーとこちらをみていたのがおかしかった。

「匠君疲れちゃったのかな?」

 衣美はソファに軽く腰かけ、足を揃えて少し斜めに座った。その自然な姿勢は大人の女性を感じさせた。

「なんか……大人っぽいな」

「え、いや……」

「先生!大学ってどんな感じてすか? 楽しい?」

 悠斗が興味津々に尋ねると、衣美は優しく微笑んだ。

「うん、楽しいよ。 サークルとか講義とか、毎日忙しいけどね。悠斗君はどんな高校行きたいのかな?」

「サッカー部のあるところかな」

 悠斗が答えると、翔と亮太も「俺も!」「俺もサッカー!」と騒いだ。

「へぇ~みんなサッカーが好きなんだ」

「お兄ちゃんもサッカー部だったんだよ」

 衣美は匠を振り向くと彼は照れそうにうつ向いた。

「まあ……俺は中学までだけど」

 顔の赤くなっている匠に衣美は思わずクスッと笑ってしまった。

「私はね、高校は弓道部だったよ」


「え!あの弓のやつ?」


 亮太が弓を引く真似をすると衣美も「そうだよ」と同じく弓を引く真似をした。そして、匠に身体を向ける。

「ばーん!」

 矢を放った真似をしただけなのだが匠は胸を押さえた。

「ちょ、大丈夫?」

 あまりにも顔を赤くした匠に思わず駆け寄ると「だ、大丈夫です」と匠は慌てた。


「少し……疲れただけですから」

「そっか……」

 照れ臭そうな匠を見て、衣美はまたニコニコと笑った。
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