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第39章 甘いお仕事

「どんなケーキがあるのかなって思っただけです。そんなもう、食べられませんよっ……」


　だけど店内に入ると甘い香りがして、また食べたくなってしまった。だけど店内には喫茶スペースはない。資料で見た通り、ショーケースは小さく、ケーキの種類も少なく、ケーキの形も素朴でキラキラはしてなかった。でもどこか懐かしい感じで、落ち着いた。


「いらっしゃいませ」


　店の奥からエプロンを付けたおじいちゃんがゆっくりと歩いてきた。


「こんにちは」


　おじいちゃんはにっこり微笑んで、ショーケースの中にアップルパイを並べる。


　アップルパイ、美味しそう……。


「こんにちは。私、コンサルタント会社の一ノ瀬と申します」


　私がアップルパイに見惚れている間に、一ノ瀬さんは仕事を進めていく。


「こちらは、職業体験中の水嶋さんです。見学させていただいてもよろしいでしょうか？」

「あっ……水嶋陽菜です！　よろしくお願いしますっ！」


　私が慌てて挨拶すると、おじいちゃんは優しい笑顔で「構いませんよ、ゆっくりしていってください」と言ってくれた。私はこのお店が半世紀も続いた理由がわかったような気がした。