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燃えて、おぼれて、尽き果てるまで ~白く滲んだスターマイン~
第2章 早春のボート ~善福寺公園~

「早い早い!」
力を込めて漕ぐとまるで少女のように悦子が歓声をあげ、ふたりの頬を甘い香りの風が撫でていく。
池を跨ぐ小さな橋の下の岸近くで遼一が漕ぐ手を休めると
「わたしにも漕げるかしら」
と悦子が言った。
「きっと大丈夫ですよ」
遼一はそう言ってからオールをボートの上にあげて留めた。
風が起こすわずかな波でボートが小さく揺れる。
「わたしがそっちへ行くの?」
「そう。場所交代するの」
「え~、どうやって?」
「悦子さんが先にここへ来て、それからぼくがそっちへ行く」
遼一は体を右に移動させながら、指で自分の左側を指して言った。
「縁をしっかり持って、しゃがんだままこっちへ来てください」
「わかった。頑張る」
そう言ってから悦子が片座りしていた脚を寄せようとスカートをひょいとつまんだ時、風がふわっとその裾をあおると、その奥のかすかな光沢のあるストッキングに包まれた真っ白なショーツとそこにあしらわれた薄いピンクの透けたレースの蝶の姿までが遼一の眼には鮮やかに映った。
スカートの中が見えてしまったことに気づいたかどうかわからない様子の悦子は遼一の手を握りしめながら夢中になって移動し、
「わたしのお尻に敷いてハンカチ汚しちゃったわ。ごめんなさい」
と言ったまま、片方の手を遼一から離そうとしなかった。
「今度はぼくが向こうへ行きます」
と、遼一が移動しようとしたとき、
「ううん、このままいて」
悦子がそれを止めた。
「このままがいい…」
悦子はそう言うと一瞬あたりを見回してから、ぽかんとしていた遼一の首を抱えてその唇に可愛らしいキスをした。
不意を突かれた遼一ではあったが、すぐに気持ちを伝えたく自分を取り戻して、今度は悦子の頭を両手で抱えて強く唇を合わせると、悦子もそれに応えてどちらからともなく舌を絡ませあった。
ふたりの動きで揺れるボートの腹を打つ波が小さな水音を立てた。
唇を離した悦子が遼一の胸に顔をうずめる頃にはやわらかい風がボートを岸に寄せ、控えめに咲く野あざみにアゲハ蝶が舞う静かな5月の昼下がりであった。

