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燃えて、おぼれて、尽き果てるまで ~白く滲んだスターマイン~
第2章 早春のボート ~善福寺公園~

 善福寺公園には、井之頭公園ほどではないがそれなりの池がある。

「近くにこんなところがあったのね」
「あるのは知ってたけど、ぼくも初めてです。」
「平日だから静かね」
「うん、せっかくだからボートに乗りませんか?」

 遼一はこの公園にボートがあることを知っていた。

「うん、うれしいけど、わたし漕いだことないわ。イノくんは漕げるの?」
「大丈夫ですよ、きっと」
「そうやって何人も口説いたんでしょ?」
「そんなことないし」
「ウソだわ」 

 眉を少しだけ吊り上げて横目で笑いながら悦子が遼一を責めると
「昔の話ですよ」
 彼はそう言って逃げるしかなかった。

「じゃ、今日は私だけにしてね」
「もちろんですよ」

 まるで女子高生のような悦子の押しに遼一はかなわなかった。
 心地よい穏やかな風の吹く5月にもかかわらず平日のせいでボート乗り場は閑散としていて、池の上にも1艘だけしか見えなかった。
 桟橋に引き寄せられたボートに先に座った遼一はハンカチを反対側に広げておいてから手を伸ばし、悦子を支えて迎え入れた。

 無表情の係員が手慣れて扱うボートハッカーであまり揺れないのだが、乗り込むときには怖かったようで
「ひとりじゃ絶対に乗れないわ」
とスカートを整えながらホッとした表情を見せて悦子は笑い、係員に押されてボートが桟橋を離れると、改めて遼一は正面に腰を下ろした悦子をその日初めて落ち着いた気持ちで見ることができた。

 淡いサンドベージュのブラウスの上に白のカーデガンを羽織り、ミントグリーンのフレアスカートから覗く細い脚があまりにも眩しく遼一の心臓を叩く。

「ごめんね、靴脱いでもいいかしら? 」
「すみません、いっぱい歩かせちゃって…」
「大丈夫よ、あまり履かないからちょっと痛くなっちゃったの」

 スカートと同系色のモスグリーンのパンプスが脱いで揃えられ、光の具合で輪郭がかすんで見えるストッキング越しの華奢な脚首、そこから伸びるきれいな足の甲とつま先を目の前にして遼一は思わず手に取って頬ずりしたくなる衝動をかろうじて抑えたが、解放されて曲げ伸ばしされる指先が眼の隅に入って、彼の煽情をさらに煽り立てるのだった。
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