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燃えて、おぼれて、尽き果てるまで ~白く滲んだスターマイン~
第1章 再会 ~東恵比寿の病院~

「あの人、結構わがままなのよね。かなり強引なの知ってるでしょ?
自分の思ったとおりにいかないと我慢ができないの。結婚してから初めてわかったわ。」

 テーブルの隅に斜めに眼を落としながら、そういうと悦子は
「こんなことならイノ君にしておけばよかった、って何度も思ったわ」
 と言って、今度は上目遣いでいたずらっぽい微笑みを遼一に向けた。

 遼一は、少しうろたえながら(今ごろそんなこと言われたって)と言いかけたのを踏みとどまり、
「冗談でしょ、からかってるでしょ」
 と少しムッとした顔を返した。

 すると悦子が真顔でこう応えたのである。

「イノ君に好かれているのはわかってたし、わたしも好きだったから」

 遼一は思わず笑みを消した悦子の眼を見つめ返した。

「でも来宮さんがいたじゃないですか…」
「そうなのよね… でもね…」
「そんな… 先輩の、部長の彼女にちょっかい出したりしたら殺されますよ。
それに学校にいられなくなる」
「そうなのよね…」

 悦子が同じことばを繰り返した。

「まわりが許さなかったわよね…」
「ぼこぼこにされてますよ、きっと」

 遼一は苦しそうな笑みを浮かべながらそう応えたが、とっさに、
「でも、今からでも遅くないですよ」
 と茶化すように笑いながら言えたのである。

「ほんと? うれしいわ」
「ほんとですよ。今これからでも」

 ふたりがそこで一緒に声を上げて笑ったはずみに、悦子が手にしていたカップから紅茶が揺れてこぼれてわずかに遼一の太腿に飛んだ。

「あ、ごめんなさい」
 と悦子が慌てて右手に握っていたうすい小紋花柄のハンカチで遼一の太腿あたりを触れると、彼は「大丈夫ですよ」と言いながら、その瞬間、身体の反応を感じて鼓動が早くなったのを覚えずにはいられなかった。

 手の指は年齢を隠せないとよくいわれるが、悦子のその手と指に20代の女性のそれと変わりない透明感と艶を遼一は一瞬で感じ取っていた。
 何秒にも満たない瞬間であったにもかかわらず、彼にはそれが何分にも感じられて、ずっとそのままでいてほしかった。
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