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燃えて、おぼれて、尽き果てるまで ~白く滲んだスターマイン~
第1章 再会 ~東恵比寿の病院~

「すみません」
「はい?」
単語だけが短く交わされたあと、ふたりはお互いを瞬時で認識して同時に声を上げた。
「伊野上君?!」
「茅原さんですよね?」
驚きが笑顔に変わるまではあっという間のことであった。
「どうしてここへ?」
それも同時に発して一緒に笑った。
「ぼくは定期健診の手続きで。茅原さんは?」
「主人が検査入院したの。これから2か月くらいかな。」
「それは大変ですね。」
「飲み過ぎで罰が当たったのよね、きっと。でもおとなしく養生すれば退院できるそうだから。」
悦子が明るい顔で応えたので、恭一は少しだけ気持ちが和らぎ、それ以上立ち入ることはしなかった。
悦子の夫は、彼女の同級生で悦子と同じく遼一も所属していた弓道部の部長で来宮俊二といい、在校中から2人の仲は公認の、校内でも知らない者のほうが少ないくらいだった。
取り立てて美人というわけではなかった悦子には、ポニーテールの似合う和風の顔立ちに加えて何といっても袴姿の凛とした立ち居振る舞いが好きで、遼一はずっと思いを寄せていたのだが、来宮俊二と茅原悦子それぞれ別の大学に入学してからもふたりの交際は続き、社会人になると間もなく結婚したのである。
破局をひそかに願ってい遼一の淡い夢は15年前に誰知ることなくついえた。

