この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
わたしの妄想日誌
第19章 旅先で。はじめての午後
(確かに、この歳でおろおろするのも大人気ないのかもと思ったのは確かです。でも、”嗜まれている”などということは…)
『いや、失礼。野暮なことを言いました…。ああ、いい塩梅です。では、そろそろ…』
久しぶりに味わった余韻に浸りながら、わたしは、鏡に向かって口紅を引いています。
『すみませんね。観光のご予定をすっかり狂わせてしまって』
鏡の向こうのあの人が、わたしに謝るように微笑みました。
『いえ…そちらこそ…』
『いやいや、お寺のご利益を頂戴できました』
それはわたしも同じでした。ご利益を”たっぷり”と…。
『奥さんに出逢えたこの街もいいのですが、今度は〇〇あたりで逢いませんか? 〇〇ならお互いもっとゆっくり過ごせます。宿の手配もさせていただきますよ』
そう言いながら、あの人は手帳の一ページを破くと、連絡先を記してわたしの手のひらにを握らせたのでした。
身支度を整えて部屋を出ました。帳場であの人が勘定を済ませます。
『少し長めになりましたがサービスしておきましょう。またお出で下さいませ』
帳場に座っているおばあさんの声が聞こえました。”長くなった”と聞かされて恥ずかしく思いましたが、おばあさんの声は事務的でした。
人気のない路地から通りに出て駅に向かって歩いていきます。途中に土産物屋が並んでいます。
(帰っても一人だし、お土産を買う必要もないのね)
あの人も土産を買うことはありませんでした。駅に着くと、あの人は手帳を手にして微笑みながら左右に振っていました。
家を出る前に見当をつけていたよりも三時間ほど遅い汽車に乗ると、窓の外はほどなく日が暮れていきました。そう言えば、お昼ご飯を食べていませんでした。わたしは車内販売でお弁当とお茶を買いました。
(あの人も今頃、遅いお昼を食べているのかしら…)
明日になったら旅行代理店に行って、あの人が今度逢おうと言っていた街のパンフレットをもらって来ようと思います。正直に言えば、再会する街はどこでもいいのです。あのような時間をまた過ごせるのなら。でも、あの人が次に逢おうと言った街のことも少しは知っておくというのが、旅慣れていくに当たってのせめてもの嗜みでしょうから。わたしが宿を予約することはないでしょうから、お店には申し訳ないのですが…。
『いや、失礼。野暮なことを言いました…。ああ、いい塩梅です。では、そろそろ…』
久しぶりに味わった余韻に浸りながら、わたしは、鏡に向かって口紅を引いています。
『すみませんね。観光のご予定をすっかり狂わせてしまって』
鏡の向こうのあの人が、わたしに謝るように微笑みました。
『いえ…そちらこそ…』
『いやいや、お寺のご利益を頂戴できました』
それはわたしも同じでした。ご利益を”たっぷり”と…。
『奥さんに出逢えたこの街もいいのですが、今度は〇〇あたりで逢いませんか? 〇〇ならお互いもっとゆっくり過ごせます。宿の手配もさせていただきますよ』
そう言いながら、あの人は手帳の一ページを破くと、連絡先を記してわたしの手のひらにを握らせたのでした。
身支度を整えて部屋を出ました。帳場であの人が勘定を済ませます。
『少し長めになりましたがサービスしておきましょう。またお出で下さいませ』
帳場に座っているおばあさんの声が聞こえました。”長くなった”と聞かされて恥ずかしく思いましたが、おばあさんの声は事務的でした。
人気のない路地から通りに出て駅に向かって歩いていきます。途中に土産物屋が並んでいます。
(帰っても一人だし、お土産を買う必要もないのね)
あの人も土産を買うことはありませんでした。駅に着くと、あの人は手帳を手にして微笑みながら左右に振っていました。
家を出る前に見当をつけていたよりも三時間ほど遅い汽車に乗ると、窓の外はほどなく日が暮れていきました。そう言えば、お昼ご飯を食べていませんでした。わたしは車内販売でお弁当とお茶を買いました。
(あの人も今頃、遅いお昼を食べているのかしら…)
明日になったら旅行代理店に行って、あの人が今度逢おうと言っていた街のパンフレットをもらって来ようと思います。正直に言えば、再会する街はどこでもいいのです。あのような時間をまた過ごせるのなら。でも、あの人が次に逢おうと言った街のことも少しは知っておくというのが、旅慣れていくに当たってのせめてもの嗜みでしょうから。わたしが宿を予約することはないでしょうから、お店には申し訳ないのですが…。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


