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わたしの妄想日誌
第19章 旅先で。はじめての午後
この春、下の娘が大学に進み家を出ていきました。夫は数年前から単身赴任ですので、普段この家にいるのは、いよいよわたし一人となりました。
駅前に買い物に行くと、旅行代理店が目に入りました。以前からあったような気もしますが、今まで利用することもありませんでした。立ち止まって、店先のラックから一冊抜き取ったのは、白壁の町並みが表紙のパンフレットでした。
(別に、家を空けてももう構わないのね)
ふと、そんなことを思いました。その場で宿へ電話を入れてもらいました。
当日、まだ暗いうちに目が覚めました。仕度は前の晩におおよそ整えていました。朝ごはんはお弁当を買って汽車に乗ってから食べるつもりですので、特にしなければならない家事もありません。わたしは鏡台の前に座りお化粧を始めました。最後に口紅を引いて鏡を見ると、妙に落ち着いて見えました。歳相応とでも言ったらいいのでしょうか。見慣れた顔なのに少しだけ知らない人のようでした。
(わたしじゃないみたいね)
そう独り言ちて、気が付きました。
(そう。もう、わたしじゃないのだわ)
大げさに言えば、ですが、そう思いました。
翌日の夜遅く、わたしは家に帰ってきました。旅先で刻んだ思い出を身体の奥に感じながら、わたしはソファーに深く身を沈めました。
(思い出じゃない。身体の奥のこの感じは…)
わたしは旅先での出来事をなぞりました。
『このお寺は縁結びの御利益があるそうですね…』
泊まった宿を出て最初に訪れたとある古いお寺で、声を掛けてきたあの人は旅慣れているようでした。同じ旅館街に宿をとっていたこと、そして何よりも同じような世代で、わたしのように時間が自由になっていることもわかって話が弾みました。しばらく二人で歩いていると、お昼を告げるサイレンが聞こえました。あの人は足を止めました。
『ちょっと寄っていきませんか』
わたしは頷いていました。
『声をお掛けしてよかった。奥さんも旅慣れていらっしゃるんですね』
(一人旅なんて初めてなのに。それにこういうところも…)
『こういうところにお誘いしてもすっとついてきてくださった。そして、落ち着いてもいらっしゃる。嗜まれていらっしゃるのでは?』
駅前に買い物に行くと、旅行代理店が目に入りました。以前からあったような気もしますが、今まで利用することもありませんでした。立ち止まって、店先のラックから一冊抜き取ったのは、白壁の町並みが表紙のパンフレットでした。
(別に、家を空けてももう構わないのね)
ふと、そんなことを思いました。その場で宿へ電話を入れてもらいました。
当日、まだ暗いうちに目が覚めました。仕度は前の晩におおよそ整えていました。朝ごはんはお弁当を買って汽車に乗ってから食べるつもりですので、特にしなければならない家事もありません。わたしは鏡台の前に座りお化粧を始めました。最後に口紅を引いて鏡を見ると、妙に落ち着いて見えました。歳相応とでも言ったらいいのでしょうか。見慣れた顔なのに少しだけ知らない人のようでした。
(わたしじゃないみたいね)
そう独り言ちて、気が付きました。
(そう。もう、わたしじゃないのだわ)
大げさに言えば、ですが、そう思いました。
翌日の夜遅く、わたしは家に帰ってきました。旅先で刻んだ思い出を身体の奥に感じながら、わたしはソファーに深く身を沈めました。
(思い出じゃない。身体の奥のこの感じは…)
わたしは旅先での出来事をなぞりました。
『このお寺は縁結びの御利益があるそうですね…』
泊まった宿を出て最初に訪れたとある古いお寺で、声を掛けてきたあの人は旅慣れているようでした。同じ旅館街に宿をとっていたこと、そして何よりも同じような世代で、わたしのように時間が自由になっていることもわかって話が弾みました。しばらく二人で歩いていると、お昼を告げるサイレンが聞こえました。あの人は足を止めました。
『ちょっと寄っていきませんか』
わたしは頷いていました。
『声をお掛けしてよかった。奥さんも旅慣れていらっしゃるんですね』
(一人旅なんて初めてなのに。それにこういうところも…)
『こういうところにお誘いしてもすっとついてきてくださった。そして、落ち着いてもいらっしゃる。嗜まれていらっしゃるのでは?』

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