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独りの部屋
第8章 ぬる湯の夜に、とける
「気持ちいいね」
そう言って笑った彼女――いや、“彼女”と呼ぶには、まだ距離がある。
けれど、こんなに近くで肌を晒しているのに、私の心はもう、裸だった。

川沿いの露天風呂。
月に照らされた湯けむりのなかで、ふたり、肩を並べて座る。

彼女の指先が、お湯のなかで私の手をそっと包んだ。
「冷たい。…手、貸して」
湯よりも柔らかい声で囁かれて、反射的に握り返してしまう。

彼女の手が、私の腕をなぞる。
肘、肩、そして鎖骨へ。
湯のなかの感覚は曖昧で、それが余計に、甘く感じた。

「もっとこっち、来て」
私の腰に回された腕。浴衣もなにもない、むきだしの肌同士。
胸がふれた瞬間、思わず息が漏れる。
彼女は、それを笑いながら受けとめて、唇を寄せた。

「ねぇ、ここで…ダメ?」
囁きと一緒に舌が耳をかすめる。
背筋がびくりと震えて、声が出せなかった。

お湯の中、彼女の指がふとももをゆっくりと滑っていく。
敏感なところに触れる前から、すでに身体は疼き始めていた。

水音と川音が重なるなか、ふたりだけの吐息が、夜を満たしていく。
彼女の指がたどり着いた場所に、私の心もすっかり、とけていた。

月が、ただ静かに見下ろしていた。
女と女、誰にも許されなくても、ここではすべてが自由だった。

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