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独りの部屋
第35章 心音だけの世界
あの子が、窓の外を見つめている。
夏の夜。街灯が遠く流れていくたび、彼女の頬が淡く照らされ、消えていく。
その光と影の中で、私はただ、彼女の横顔を盗み見ることしかできなかった。

「静かだね」と彼女がぽつりと言った。
私はうなずきながら、シフトレバーの隣にある手のひらをそっと包む。
彼女の指先が、ぴくりと小さく震えた。

ほんの少しのことなのに。
こうして触れるだけで、胸の奥がふるえるなんて──
私はどれだけ、この子に心を預けてしまったんだろう。

「ここ、触れると……すぐわかるのね。あなたの全部」

そう囁くと、彼女は何も言わずに、私の肩にそっと寄りかかった。
その重みが、熱が、私の世界を埋めていく。
エンジンを止めた車の中、聴こえるのは互いの呼吸と、心音だけ。

「怖くない?」
私が問うと、彼女は首を横に振った。

「でも、知らないことばかりで、胸がぎゅうってなるの」
そう言う声が、どこか震えていて。思わず、私は彼女の髪に口づけた。

「大丈夫。ねぇ、今夜は……あなたのペースでいいから」

外の夜は深まる。けれど、ふたりの間にはまだ、あたたかい光が残っていた。

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