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独りの部屋
第31章 湯気のむこう
髪を拭きながら戻ってくる彼女の姿に、思わず息をのんだ。
浴衣の襟元、結びが甘くて、鎖骨のあたりがほんのり赤い。
湯気がまだ、彼女の肌にまとわりついている。

「紗耶さん、そっち……乱れてるよ」

わざと何気ない声で言う。
指先でそっと襟を整えてあげるふりをしながら、指が触れる肌の温度を確かめる。
びくっと肩が揺れた。

「な、何でもないですっ……!」

焦ったように身を引こうとするけど、もう遅い。
彼女の頬はさっきからずっと紅潮したままで、視線も泳いでいる。

私はそんな顔が、たまらなく好きだった。

「そんなに赤くなるなんて、湯冷めしちゃうよ」
笑いながら、そっと手を取る。
細くて、湯ざめしかけた指。けれど、内側はまだ火照っている。

「ほら、触るだけ。……手、冷たいでしょう?」

嘘。ほんとは、わたしのほうが熱い。

彼女が視線を伏せたまま、唇を噛むのを見ると、
くすぐりたくて仕方がなくなる。

羞恥に震えるその仕草ごと、ひとつ残らず、私だけが知りたくなる。

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