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独りの部屋
第24章 会えない夜
逢えない夜ほど、彼女の声が艶を帯びる。

「…いま、何着てるの?」

低く問いかけられた声に、私はベッドの中で、毛布を握りしめた。
スマホ越しの通話。映像は繋がず、音だけ。
なのに、彼女はまるで傍にいるみたいに、私の肌を撫でてくる。

「ネグリジェ。今日、送ってくれたの、着てる」

「似合ってるでしょうね。想像しただけで、今すぐ脱がせたくなる」

吐息まじりのその声に、胸がふわりと疼いた。
指先が、自分の鎖骨をなぞる。
彼女の手ではないけれど、彼女の指がそこにあるような気がして。

「触れて。そこから、ゆっくり…」

耳元で命じるように囁く彼女の言葉に、
私はこっそり脚をすり合わせる。

音だけで、ここまで心も身体も濡らされてしまうなんて――
逢えないはずの夜ほど、彼女は私の中に深く入り込んでくる。

「…今度、会えたらどうするの?」

囁くように聞くと、彼女の返事は一瞬だけ間があって、
それから、獲物を狩る猫のように甘くて残酷だった。

「あなたを、一晩中、離さない」

私は目を閉じ、毛布の奥でひとり、
その声に何度もほどけていった。

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