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独りの部屋
第23章 声、ひそめて

「あら、今、ひとり?」
小さく囁くように問いかけると、
受話器の向こう、彼女――優子の息が、ふっと揺れた。
「はい。でも…、まだ何人か、残ってます」
午後八時を過ぎた事務所には、残業組のキーボード音が遠くに響いている。
私の耳にはもう、それすらも遠ざかっていく。
欲しいのは、彼女の声だけ。
「声、ひそめて。聞こえたら、困るでしょ?」
冗談めかして言いながら、私は自分の太ももにそっと手を這わせた。
スリットの奥、ストッキング越しに熱が立ち昇る。
「…だめ、沢村さん…、ここ、会社です…」
困ったような声。けれど、その震えには、微かな熱が滲んでいる。
その声を引き出すたび、私は彼女を支配しているような、
けれど同時に、どうしようもなく惹かれていくような感覚に溺れてしまう。
「優子、いま、何してるの?」
「…机の下で…、脚、閉じてます。うまく…隠れてる…と思う…」
想像だけで、ぞくりとした。
人の気配がある空間で、息を殺して、私の言葉に反応する彼女。
声をひそめ、でも欲情は止められない――
そのギャップに、胸の奥がじわりと疼く。
「もう少しだけ、声、聞かせて。誰にも気づかれないように…
あなたが、私のものだってこと、こっそり思い出させて?」
受話器を強く握る手に、うっすらと汗が滲んだ。
誰かが、すぐ後ろを通り過ぎていく。
けれど、わたしの耳にはもう、彼女のくぐもった吐息しか届いていなかった。
完
小さく囁くように問いかけると、
受話器の向こう、彼女――優子の息が、ふっと揺れた。
「はい。でも…、まだ何人か、残ってます」
午後八時を過ぎた事務所には、残業組のキーボード音が遠くに響いている。
私の耳にはもう、それすらも遠ざかっていく。
欲しいのは、彼女の声だけ。
「声、ひそめて。聞こえたら、困るでしょ?」
冗談めかして言いながら、私は自分の太ももにそっと手を這わせた。
スリットの奥、ストッキング越しに熱が立ち昇る。
「…だめ、沢村さん…、ここ、会社です…」
困ったような声。けれど、その震えには、微かな熱が滲んでいる。
その声を引き出すたび、私は彼女を支配しているような、
けれど同時に、どうしようもなく惹かれていくような感覚に溺れてしまう。
「優子、いま、何してるの?」
「…机の下で…、脚、閉じてます。うまく…隠れてる…と思う…」
想像だけで、ぞくりとした。
人の気配がある空間で、息を殺して、私の言葉に反応する彼女。
声をひそめ、でも欲情は止められない――
そのギャップに、胸の奥がじわりと疼く。
「もう少しだけ、声、聞かせて。誰にも気づかれないように…
あなたが、私のものだってこと、こっそり思い出させて?」
受話器を強く握る手に、うっすらと汗が滲んだ。
誰かが、すぐ後ろを通り過ぎていく。
けれど、わたしの耳にはもう、彼女のくぐもった吐息しか届いていなかった。
完

