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独りの部屋
第21章 見るだけなのに

「見るだけでいいって言ったでしょ?」
沢村さんの声は、潮風よりも低く、熱を帯びていた。
岩陰の入り江、誰にも見られない場所で、彼女は水着の紐をほどき、背をわたしに向けた。
日焼けひとつない、滑らかな背中。振り返ることなく、彼女は自分の脚をそっと開いた。
「ほら、ちゃんと見て。教えてあげる」
三十になっても、こんなこと、一度もなかった。
異性とも付き合ったことがない私が、ただ見ている。
けれどその「見るだけ」は、思っていたより、ずっと濃密で、
脈打つような感覚が、視線から身体の奥に伝わってくる。
沢村さんは、自分の指を滑らせながら、わたしの目をまっすぐに捉えた。
羞恥も、照れも、そこにはなかった。
あるのは、すべてを知っていて、すべてを許す、成熟したやさしさだけ。
「こんなふうに、自分で知るのも大事よ。…あなたも、触れてみたくなったら、言って」
わたしの喉が、ごくりと鳴る。
潮の香りが満ちる中、胸の奥だけが、ざわついていた。
ただ、見るだけのはずだったのに。
完
沢村さんの声は、潮風よりも低く、熱を帯びていた。
岩陰の入り江、誰にも見られない場所で、彼女は水着の紐をほどき、背をわたしに向けた。
日焼けひとつない、滑らかな背中。振り返ることなく、彼女は自分の脚をそっと開いた。
「ほら、ちゃんと見て。教えてあげる」
三十になっても、こんなこと、一度もなかった。
異性とも付き合ったことがない私が、ただ見ている。
けれどその「見るだけ」は、思っていたより、ずっと濃密で、
脈打つような感覚が、視線から身体の奥に伝わってくる。
沢村さんは、自分の指を滑らせながら、わたしの目をまっすぐに捉えた。
羞恥も、照れも、そこにはなかった。
あるのは、すべてを知っていて、すべてを許す、成熟したやさしさだけ。
「こんなふうに、自分で知るのも大事よ。…あなたも、触れてみたくなったら、言って」
わたしの喉が、ごくりと鳴る。
潮の香りが満ちる中、胸の奥だけが、ざわついていた。
ただ、見るだけのはずだったのに。
完

