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独りの部屋
第11章 【秘密ごっこ】
「ねえ、今だけ“恋人ごっこ”しない?」
そう言ったのは、夏休みの最後の日だった。

私は笑ってうなずいたけど、彼女の目はまっすぐで――
冗談には見えなかった。

ふたりきりの部屋、カーテンを閉め切って、午後の光を遮った。
外では蝉が鳴いていたけれど、ここは、世界から切り離されたように静かだった。

「キス、していい?」
彼女の声は震えていた。
私は頷くだけで、唇を差し出す。

やわらかく、でも熱のこもった口づけ。
くちびるを離してからも、彼女の指が私の髪を撫で、頬をたどり、首筋へと降りていく。

「こういうの、ごっこじゃなくなるかも」
囁きながら、私のシャツのボタンをひとつずつ外していく。
胸元がひらくたび、空気が肌に触れて、ざわりと鳥肌が立った。

彼女の手が、そっと胸にふれる。
指先で撫でるたびに、奥のほうで甘い痛みがひらいていく。

「声、出しちゃだめ」
彼女が私の耳元でそうささやいて、舌でそこをやさしく責める。

ベッドのシーツがしわくちゃになっていく。
私の脚のあいだに忍びこんだ彼女の手が、熱を探るように動いて――
思わず唇を噛みしめた。

「この“ごっこ”、ずっと続けたいな」
彼女の頬にかかる髪が濡れていた。
私は何も言えず、ただ、彼女の背を抱きしめた。

秘密は、いつだって甘くて、少しだけ苦い。
でもそれでもいい。
この夏の終わりが、ふたりだけの“はじまり”になりますように――。

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