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わたしのお散歩日記
第6章 居酒屋さん
 商店街の一角に居酒屋さんがあります。赤い提灯があって縄のれんがさげられていて。お店が開くのは夕方でしょうから、前を通るときにはビールの空き瓶が入った赤や黄色のケースが何個かお店の前に積まれています。

 そんなに呑めるわけではありませんけど、居酒屋さんって、勤めていた頃はたびたび行く機会はありました。壁におつまみが書かれた紙がいっぱい貼ってあって、あれこれ目移りしながら何品か選んで、頼んだいろいろなお料理をちょびちょびいただきながら、お酒もちょびちょびといただくのが好きでした。お酒が回ってきた先輩や同僚が、思いもよらぬ毒を吐いたりして驚かされることもありましたが、それはそれで楽しいものでした。

 これは女子社員だけで行くときの話で、そうでないときは、出てきた料理を小皿に取り分けたりするのは若手の女子社員の役割という感じでしたし、酔いが回った男性社員にお尻を触られるくらいは当たり前でした。それでも、親密になる機会というか、なんとなく出会いの場になっていたようなところがあったのも事実で、お店を出てふっと行方をくらまして翌朝みんなから追及されて恥ずかしそうにしている同僚もいましたし、中にはそのまま寿退職してしまった人もいました。

 今のわたしが居酒屋に惹かれるのは、そんな男女の出会いを求めている訳ではなくて…なんて断りを入れるのも自意識過剰に過ぎるのはわかっているのですけれど、なにより、ちょっとした自分へのご褒美にちょうどよさそうだからです。壁にいっぱい張り出されたおつまみの数々から、どれも美味しそう…なんて思いながら、さんざん目移りしてようやく何品か注文して、そのまま座っているだけで目の前にとんと出てくる…というのがステキです。美味しいおつまみに出逢って、どうやったらこのお味が出るのかしら…なんてあれこれ想像を巡らせてみるのも楽しそうです。

 …というわけで、会社時代からの古いお友達を誘って、ある晩ついにのれんをくぐってみました。3年くらい先輩でよく面倒を見てもらいました。今でもつい名前じゃなくて『センパイ』って呼んでしまいます。

 お店に入ると想像していたような豊富なおつまみのメニューがかべにずらっと並んでいます。ずいぶん時間をかけてようやく何品か選びました。
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