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わたしのお散歩日記
第8章 夏の海
 そんな話はともかく、海に一緒に行っていた5歳くらい年上の先輩が、いつの間にか姿が見えなくなった。海の家で缶ビールを何本も呑んでいたから、わたしは溺れちゃったんじゃないかって心配になって1年上の先輩に言った。

 『〇子主任、姿が見せませんよね。お酒も呑んでたし、もしかして…。救護の人に探してもらうようにお願いしてきましょうか?』

 1年上の先輩は平然としている。

 『ん? 主任さんなら大丈夫よぉ』
 
 それでも心配しているわたしに先輩は苦笑いしながら缶ビールを飲んでいる。

 『そんなに心配しなくても大丈夫だって。あそこの小屋にいるから』

 先輩が指をさす。若い男の子がたむろしている海の家から離れたところに、古びた小屋が立っている。

 『あんな小屋に主任さんが? 何の用なんでしょう?』

 先輩は苦笑いしている

 『さあ、何の用かしらね。見に行って隙間から覗いてくれば?』

 『隙間から覗く』なんて言われて鈍感な私もようやく気が付いた。

 『えっ。もしかして』

 わたしはひとりでどぎまぎしている。

 『主任さんのおたのしみだからねぇ。今年はどんな魚が釣れたのかしら』

 主任さんは1時間くらいして戻ってきた。海から上がってきたみたいで身体も髪も濡れている。海でひと泳ぎしてきたのだろう。小屋から真っ直ぐ戻ってくるのはためらわれたのだろうか。わたしは(お帰りなさい)と言いかけて慌てて口をつぐんだ。

 『あなたたち、ずっとここにいたの? せっかくなんだから泳いで来たらいいのに。気持ちいいわよ』

 タオルを髪に当てながら主任さんがわたしたちの間に腰を下ろす。濡れたワンピースの水着が妙に艶めかしい。

 『お留守番してたんですよぉ。気持ちよかったですかぁ?』

 1年上の先輩が主任さんに冷やかすように声を掛ける。

 『だからぁ、気持ちいいって言ってるじゃない』

 先輩ふたりがわざとらしいやり取りをしている。

 『いつも思うんですけど、砂とか入らないですかぁ?』

 先輩はちょっと酔いが回ってるみたい。

 『いやぁね。入らないようにするってもんでしょ。…ねぇ?』

 主任さんがいたずらっぽくわたしに相槌を求めてきた。

 『ですよね!』

 調子を合わせてわたしが応えると、主任さんも先輩もギョッとしたようにわたしを見た。
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