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わたしの昼下がり
第36章 手順
 いくら部屋にはわたししかいないと言っても、ここは団地の一室。このような場所では、踏むべき手順というものがあるにしても、すぐに始めて、すぐに終えるというのが自然というものだろう。むしろ、夫の方がよほど踏むべき手順を踏んでいないし、そもそも手順など知らないように思える。そんなことは、△井はとっくに見抜いているのだけれど。

 「どうぞこちらへ」

 自分の家でくつろいでいるようにソファーに座っている△井が、わたしを隣に招く。

 わたしは△井に入念に手順を踏まれた。そして、からだの中の蛇口という蛇口を△井に開けられていくような感覚に、わたしは、もはや手順など省略して欲しいと懇願するように、なおも手順を踏もうとする△井の手首を掴んでいた。

 「もう、お願い、ください…」

 事が終わり△井はいつものようにタバコをふかしている。ソファーに深くもたれたまま時計を見ると、まだ昼にもなっていなかった。

 「手順を踏んでいくつもりがかえって時間が浮いてしまいました。”急がば回れ”とはよく言ったものですね。ああ、今日は別に急ぐこともないのですが。奥さん、お昼はどうされます?」

 空腹感など感じてはいない。首を横に振ったわたしを見て、△井がニヤッと笑った。

 「…ですよね。それにしても、このソファーが革張りでよかった」

 布張りより値は張りましたが夫がこれがいいと選んだソファー。踏むべき手順を踏んでもらうにはにちょうどいいのかもしれない。一回目は最後まで踏まれないうちにわたしが音を上げてしまったが、せっかくの長居。二回目こそは△井が踏もうとする手順をじっくりと堪能したい。

 「どうぞこちらへ」

 ソファーに垂れ落ちていた名残りをタオルで綺麗にするとわたしは△井を招いた。

 「今度は奥さんに手順を踏んでもらおうかな。せっかくの長居だし」

 △井が人差し指でわたしの唇を弾いた。
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