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わたしの昼下がり
第35章 デパートの紙袋
 娘たちが学校から帰ってくる前に、スーパーマーケットへ買い物に行く。団地を抜けて通りに出ると駅から来たバスが停留所にとまり、何人か下りてくる。その中に、みどり台にあるデパートの紙袋を提げた女の人がいる。わたしが△井と密会した連れ込み旅館のあるみどり台。密会の帰りに、わたしも同じ紙袋を提げて団地に帰って来た。

 女の人は団地に向かう緩い坂を上がっていく。年恰好はわたしと同じくらい。特に目立つ容貌でもなく面識もないが、スーパーマーケットで見かけたような気もするから、おそらくは団地の住人だろう。スーパーマーケットでは見かけないようなフォーマルな出で立ちで、菓子折りでも入っていそうな底の広いデパートの紙袋もよく似合っている。

 だが、その後ろ姿は買い物帰りの晴れやかさよりも、どこか疲れを帯びて見えた。上り坂とはいえ、その足取りはひどくゆっくりとしている。デパートの紙袋を提げていることで、ようやく体裁を保っているように見えたが、紙袋がひどく重たげに見えた。

 わたしにデパートの紙袋を持たせたのは△井だった。

 『あ、そうそう、お母さんがちゃんとデパートに行った印にと思って、菓子折り買っておきましたから。皆さんで召し上がってください』

 秘密裏に事を済ませるためにいろいろと気が回る△井に感心したものだった。

 『男と女がハメるためだけの場所に来ましたよ』

 そう言いつつも、あの日、△井は、わたしの化粧が崩れたり髪型が乱れるようなことも控えていたことを思い出した。連れ込み旅館で聞こえてきた他のカップルの声が聞こえ、わたしも同じような声を上げて、そしてまた他のカップルに聞かれていたのかと思っていたたまれないような気持ちになったとき、△井はそんなことも言っていた。

 『夫や子供に悟られぬように性欲を処理するのも、良妻賢母の嗜みですよ』

 わたしは夢想する。△井と別れて旅館を出ると前を彼女が歩いている。彼女がデパートに入って行く。わたしも後に続く。そしてそれぞれ菓子折りを求める。わたしが買うのは夫が好きなどら焼き。彼女が買ったのはショートケーキ。駅で切符を買い、同じバスに乗り、同じ停留所で降りる。同じ紙袋を提げるわたしに向こうも気づいていたのだろう。

 『いろいろ気を遣いますわね』

 二人の良妻賢母が微笑んで会釈を交わす。
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