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わたしの昼下がり
第33章 煙草の吸殻(3)
 団地での井戸端会議でも、ある程度気やすい関係になってくると、夫婦の営みの頻度など、そういう話をしたがる人はいるものだ。それでも、わたしは聞き役に徹していて、立ち位置は団地生活の中でも変わっていないことに気付いた。

 △井はことさら自分のことは語らないから、おそらく妻がいるくらいのことしかわからない。わたしとの”相性がいい”といったことは毎回のように口にするが、社交辞令のようでもあり、わたしについて根掘り葉掘り詮索するようなこともしない。わたしはタバコを咥え、食卓の籠の中に入れられたままになっている夫のライターで火を付けた。

 タバコの煙が味覚と嗅覚に、先ほどまでの△井との行為をよみがえらせる。行為がよみがえればすぐに、からだの奥深くが、何より、△井には、夫やOL時代の上司などよりも、わたしのことを数段詳しく深く知っている男となっていることを教えて来る。

 互いの連れ合いにも話したことのないようなそれぞれの来し方をことを、今更△井と給湯室のOLのように告白し合っても興ざめするだけかもしれない。事を終えて二人でタバコをふかすことはあるかもしれないが、話すのは互いの告白などではないだろう。

 『今日はこれぐらいにしておかないと、ご主人はよくてもお天道様が許してくれないかもしれませんね』

 そんな△井の軽口が思い浮かべながら、灰皿の吸い殻が一本増える。わたしは窓を開け、灰皿をビニールの小袋にあけると、急須に残る茶殻も入れてきつく口を結んだ。洗濯機が音を発して洗濯が終わったことを告げている。

 『じゃ、奥さん、また。…明日も来られるかもしれません』

 帰り際、△井はそう言っていた。ベランダに出ると朝に干した洗濯物はもう乾いている。この天気なら、今からでもシーツもシーツごしに湿り気を帯びてしまったわたしの布団もほどなく乾くだろう。ただ、時間はもう昼近い。朝に押入れにしまった夫や娘たちの布団を手すりに並べてから、”今日も湿らせてしまいました”とわたしの布団をお天道様に晒した。
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