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わたしの昼下がり
第32章 キッチンドランカー
 PTAの催しとして「保健講話」が開かれた。会場として宛がわれた小学校の教室で、講師を務める白衣を着た五十歳くらいの保健婦さんを、二十人くらいの母親囲んでいる。

 保健婦さんによると、家事や育児に追われる主婦が、食事の支度などをしながら少量のお酒を飲む習慣を持つことがあり、それが毎日の積み重ねで飲酒量の増加につながる場合があるという。「キッチンドランカー」と呼ばれるそうだ。

 「主婦の方は家の中で孤立しやすく、悩みや疲れを一人で抱え込みがちです。ほんの気晴らしのつもりが習慣となり、気付かぬうちに深酒へ進むことがあります」

 (気付かぬうちに深酒へ進む…)

 気晴らしのつもりだったような気はしているが、習慣となっていると言われれば否定することはできない。

 「気付かぬうちにねえ…。あの…『深酒』というのは、どれくらいからなんでしょうか? 一合くらいなら大丈夫でしょうか?」

 役員をしている母親の一人がわざと深刻そうな表情を浮かべて質問する。母親たちから笑いが起きる。

 「そうですね。人にもよりますから一概には申せませんが…」

 保健婦さんも笑いながら手元で本を開く。

 「つい量が増えるとか、酔いが深くなるまで飲む、毎晩かなり飲む…。そんなふうになっていきます」
 「確かにお料理作りながら飲むことはないわねえ」
 「〇〇さんは飲むんじゃなくてつまみ食いでしょ」

 また、笑い声が起きる。

 「そして、健康や生活に影響が出始める…。まあ、”度を越して飲んでしまう状態”とご理解いただければ、よろしいんじゃないでしょうか」
 「度を越して…『アル中』とか?」
 「ええ。いわゆる中毒のような状態に至ることもあります。ただ、そうなるまでの間は、家事は普段どおりになさっている場合が多いので、ご本人もご家族も異変に気づきにくいとも言われているんですよ」
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