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わたしの昼下がり
第9章 距離感
 気が付けば今年も半分終わりました。

 『奥さん、どうですか、昼間から他人棒を咥え込むのは』

 △井はわたしに突き込みながら、たびたびそんなことを言っては羞恥心を煽ります。

 『ああ、そんなこと、△井さん…』

 わたしは、『△井さん』と付け加えて『他人棒』を咥え込んでいるという羞恥心を煽られる悦びを伝えます。

 『ふふ…。好きですものね、こういうのが。ねえ、奥さん…』

 △井も『奥さん』と付け加えて、暗黙のうちに互いの興奮を高め合っています。

 △井はわたしのことを常に『奥さん』と呼びます。階下にある各戸の郵便受けには室の番号と表札も表示されているので△井も目にしているはずですが、名字を呼ばれたことはありません。もしいちいち名字で呼ばれていたら、元は夫の姓ですしうっとうしいような気もします。一度、テーブルに郵便物を置きっ放しにしていたこともあったので、下の名前も知られているのだと思っていますが、下の名前で呼ばれたこともありませんし、もちろんわたしも下の名前で呼んだこともありません。

 わたしははじめに受け取った名刺で△井の名前は知っていますが、恋仲の男女というわけでもありませんし。今年に入ってから夫に抱かれたのはほんの数えるほどで、△井との回数の方がよほど多いのですが。からだの関係だけ…という距離感を保っていく上でも『奥さん』でよいと思っています。

 OL時代の上司との付き合いでは、わたしはずっと『課長さん』か『課長』と呼んでいましたが、上司は、はじめは『〇〇クン』とわたしの(旧)姓で呼び、そのうち『〇〇子クン』と下の名前になり、終わりの頃は『〇〇子』と呼び捨てにしていました。

 『〇〇子、俺がアイツと別れたら一緒になるか?』

 『〇〇子』と呼ぶようになってから、上司はそんなことを言うようにもなり、からだだけの関係という距離感が崩れ始めているようでした。わたしは、上司の老練なセックスに快楽を覚えていましたが、関係を清算しないといけないと思うようになりました。

 その点、△井は、わたしを『自分の女』にしたというような思いを見せることもなく、一定の距離感が縮まることがないように気を回しているようです…。
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