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なりすました姦辱
第4章 隔絶された恋人
 主婦たちに追っ払われるように歩き始めたけれども、この道をずっと進むとどこに着くのか、わからないまま歩いていた。そもそも隣を付き添ってくれている水面が、何川なのかもわかっていない。少し先に鉄道橋が見える。電車がやってくれば、どの電鉄会社のどの路線かわかり、何川のどのあたりなのかくらいの当たりがつくかもしれない。

 と、思ったがすぐ、走行音が近づいてくるのが聞こえてきた。

「ママ! 電車!」
「そうだね。電車来たね」

 電車が河川を渡り始めると、土手に親子でいた子供のほうが、ぴょんぴょん飛び跳ねて鉄橋を指さした。子供というやつは、何故に目にしたものをそのまま親に伝えようとするのだろうか。そして親というやつは、いちいち応じているから大したものだ。

「ママ、電車、は?」
「Train. ……The train is passing over a river.」

 帰ろうとしていたのだろう、野面に広げていたシートを畳みつつ、背の高いお母さんは子供に丁寧に英単語を教えている。「passing over」にはネガティブな意味もあった気がするが、ゆっくりでも美しい発音で伝えているから、子供に教えて問題ない自信が、お母さんにはあるのだろう。

 親子に気を取られたせいで、電車がどんなカラーだったかを見逃してしまった。すみませんあれは何線ですかと尋ねる前に、お母さんは子供を抱き上げ、子供はお母さんの髪や頬に何度も顔を埋めるように圧しつけながら、二人はその場を離れていってしまった。

 今日が何曜日で、ここがどこなのか、スマホを取り出しさえすれば容易くわかることだが、どのポケットにも入っていなかった。といっても、何日か前に未払いの督促状が届いていたから、持っていても、まるで役には立たなかったかもしれない。

 相変わらず、ジャケットの背中がチリチリと焦げているように思えるくらい、日射しは強い。よく考えたら、何を律義に上着を着込み続けているのか、脱げばいい話だった。

 肩から外そうとしたところで、一段下の自転車道から、「せーのっ、あいっ」という黄色い声が聞こえてきた。
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