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なりすました姦辱
第1章 脅迫されたOL


 汐里が現れたのは、23時を超えてからだった。

 ミントグリーンの膝上のペンシルスカートに、ホワイトのボウタイブラウス、淡いネイビーのジャケット。緩やかに肩に落ちる髪に飾られた美貌には、華やかなメイクが施されており、保彦が普段あまり接することのない、いかにも「綺麗なお姉さん」然としていた。
 
 中へ促されると、廊下から睨みつけ対峙している時間も無駄に思ったか、肩で大きく息をついてから後ろ手でドアを閉めて入ってくる。しかしパンプスの踵を外そうとしたところで、漂う不快な臭いに眉を寄せた。躊躇は一瞬のこと、結局脱いで三和土から上がり、奥部屋まで進んできて、玄関先と同じの、人を見下すような立ち姿となる。腕組みによって強調される胸の膨らみ、斜に投げ出されているストッキングに包まれた脚線、リアルの世界に出てきた『リリ』は、どれを取ってもルックス偏差値Sクラスに位置付けられよう、華容の持ち主だった。
 
「どうしたの? 突っ立ってないで、もっと楽にしていいんだよ」
「……ありえない。もうっ、なんなのよ、これっ! ちょっとは掃除してよっ」
 
 黒目だけを左右に往復させてから、ずっとは見ていられず正面に戻し、ヒステリックに叫ぶ。

 爪先立ち、なるべく大股で進んできた様子から、自分がこの部屋に足を踏み入れた時と同じく、汚部屋ぶりにドン引きしている。しかも靴下を履いている自分に比べ、汐里は裸足と床の間には極めて薄いストッキング生地しか遮るものがないのだから、汚辱感はひとしおだろう。
 
 保彦は、そんな汐里を内心喜ばしく眺めていた。汐里の目には、土橋という中年男がニヤニヤとした気色悪い笑みを浮かべているようにしか見えないにちがいない。顰められた美しい顔は、純然たる憤怒ではない、どんな部屋であろうが訪れ、足を踏み入れ、汚らしい中年と二人きりになければならぬ屈辱が、否が応にも滲み出ていた。

「そうだよ、こんな汚い部屋で、こんな俺と……、セックスするんだよ、広瀬さん。ふふっ、ドキドキしちゃうでしょ?」

 保彦自身、キモい発言だ、と思った。

 醜い土橋が、まともなら絶対相手にされないような汐里へ、まともなら絶対に許されないセリフを吐いている。視界は土橋のものだが、俯瞰的に状況を見下す画を思い浮かべてみると、これまで感じたことのない愉楽に心奥を妖しく刺激される。
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