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なりすました姦辱
第1章 脅迫されたOL
 彼らの前でどう振る舞えばいいのだろう。自分は、土橋哲郎ではなく、武藤保彦という者です。土橋がメンタルを患っていることを家族が知っているならば、相当な混乱を発生させることになる。そこへ土橋がやって来てくれたとしても、彼らにしてみれば、ヤバいことを言っている家族の土橋哲郎と、ヤバいことを言っている見ず知らずの若者の武藤保彦が、そこにいるだけだ。

 しかし、目的地に到着して、保彦は安堵した。

 二階建ての古いアパート。入口には何とかハイツと書かれていたのだろうが、その肝心の何とかの部分が完全に剥がれ落ちていて、ハイツすらもツの表示が危うくなっている。しかしその下に埋め込まれた青地の番地表示は、免許で確認したもの同じ。外観から察するに、家族で住むような物件ではなかった。

 錆びた外階段を登り、廊下で部屋番号を確認していくと、二〇四号室は最奥の角部屋だった。隣に立つ工場だか倉庫だかのトタン壁がすぐ側まで迫っており、ドアの周辺はかなり薄暗かった。

 ポケットから取り出した鍵を差し込んだら、もちろん、開いた。

 中に一歩入るなり、すえたニオイが鼻を突く。他人の部屋の生活臭は決して心地良いものではないが、それを度外視しても、入室を憚られる空気で満たされていた。

 とはいえ、ここで立ち去っては、来た意味がなくなる。

 保彦は意を決して、靴を脱いで中へと入った。スリッパ無しで床を踏みしめるのには抵抗があったが、どうせこの足の裏は自分のものではない、と自らを説得し、内部へと歩を進めていく。意外に広めの1K、四畳半くらいのキッチンスペースを抜けた先は、まだ陽は高いのに、暮れたあとのように薄暗かった。おそらく六畳のフローリングらしいのだが、大量のゴミ袋に囲まれていては狭く感じる。真ん中に鎮座した薄汚れたマットレスの周囲にも様々な物が散乱していて、板目が殆ど見えない。
 
(きったね。カンベンしてくれよ……)
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