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なりすました姦辱
第1章 脅迫されたOL
 合皮が色褪せ、角の剥げたみすぼらしい財布に札は入っておらず、辛うじて小銭だけで支払うことができた。大きな歩道橋に昇り、看板に書いてあった通りの場所にあった喫煙所でフイルムを剥き、咥えた一本に火を灯す。

 肺に煙を入れた瞬間、刺すような痛みを感じて思い切り咽せた。
 初めて吸ったときのような煙味の濃さだった。

 なるほど、魂が入れ替わっても、肉体感覚はこの男のものとして感じるということか。肺痛を伴ってでも吸い込んで一層の冷静さ取り戻した保彦は、目元に漂ってくる煙に瞼を細めながら、もう一度、財布を取り出した。

 免許が見つかる。

 土橋哲郎。
 どばし、てつろう、で良いのだろう、それがコイツの名であるらしい。

(……マジ!?)

 生年月日から逆算すると46歳とのことだったが、鏡に見た風体はもっと年長に見えた。やはり、禿げているのに未練がましく髪を伸ばしているヘアスタイルが、歳嵩の印象を与えるのだろう。

 免許に記載されている住所を、マップアプリに打ち込む。

 土橋は今、どこにいるのだろう? 記憶が正しければ、自分の持ち物の中に自宅を特定できるものは無い。ということは、土橋が現れるとするならば、こっちだ。

 まずは、もう一人の当事者と合流する。それが最善手だと考えられた。

 保彦はパスケースに収められた定期券の区間表記が、まさしくマップ上に見つけた最寄駅であることを確認すると、灰皿へ吸い殻を投げ入れ、日比谷線の乗り口へと向かった──

 ──普通電車しか停まらない駅前からは、商店が立ち並ぶ細道が伸びており、マップアプリの表示を頼りに歩みを進めていった。一応は商店街のようだが、シャッターが降りている店が多く、平日の午前中、通勤通学の時間帯も過ぎたとなれば人通りはまばらだった。地図を見ると、目的地周辺は更に細い道が入り組んでいる。見当をつけて折れると、古い戸建てが並び、もはや誰一人いない風景へと変わった。

 ここまできて、保彦は一つの不安を覚えた。戸建て。この男に同居人が居ないとは限らない。この見てくれだ、結婚・子供は無理だとしても、親兄弟と住んでいる可能性は充分にある。全て、自分にとっては知らない人々だ。
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