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なりすました姦辱
第1章 脅迫されたOL


 上野から日比谷線に乗り、北千住からの東武線乗り入れでいくつかの駅を過ぎると、目的の駅を告げるアナウンスが聞こえた。初めて乗る路線なので、初めて降りる駅である。草加を過ぎたから、ここはもう埼玉のはずだ。

 ──恩賜公園でずっと座っていても、柵が開きそうになかった。

 行動を起こそう。
 夢なら夢で、途中で醒めてくれればそれでいい。

 自分がこの男の肉体に宿ってしまったのならば、この男の魂はどこに行ってしまったのか?
 
 最も自然に考えると、自分の肉体に宿っているにちがいなかった。

 走って道角でぶつかったわけでも──こんなオッサンとは御免こうむりたいが──二人で抱き合って階段を転げ落ちたわけでもない。だが、フィクションでよくある設定の通り、肉体と魂が入れ替わってしまったのだ、と理解するのが、一番しっくりときた。

 ひとつ、ラッキーだったことがある。

 この男の使っているスマホには、指紋認証機能が搭載されていた。メーカーも、まさか魂が入れ替わってしまうようなケースは想定していなかったから、親指を当てると、パスコードを入力することなくセキュリティを突破することができた。

 保彦は歩き出しながら、自分の携帯番号を鳴らしてみた。
 呼び出し音が続く。鳴りっぱなしだ。

 当然、こんな男の電話番号を登録していないから、向こうのスマホの画面には、番号だけが表示されているはずだった。

 それを見て、自分の電話番号だとわからないのか?
 記憶していないということか?

 相手は相手で、他人の肉体に宿ってしまったことに混乱しているだろうから、怖くて出られないのかもしれない。そう好意的に解釈したかったが、「にしても勇気を出して出ろよオッサン」と心の中で毒づいて発信を切ると、『駅周辺禁煙』の文字と所定の喫煙場所を示す看板が目に入った。探り尽くしたスーツのポケットに、煙草は無かった。吸わないのだろう。

 『たばこ』の文字を掲げたコンビニに入り、普段吸っている銘柄を告げた。レジ横に陳列されていたライターも手に取る。

(げ……)
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