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天狐あやかし秘譚
第72章 侵掠如火(しんりゃくじょか)

そう思いかけた時、周囲からダリ『達』が湧き出すように現れ、襲いかかってくる。その姿を見て、カダマシはにやりと笑った。
「そう来なくちゃな」
奴は生きている。そして、おそらくあの女も。
変な話、良かった、とすら思ってしまった。これで女を捕らえるというミッションも果たせるというものだ。
周囲から十数体のダリが『右手』に槍を持って襲いかかってくる。
へ!随分余裕がねえじゃねえか。
失ったはずの右手を幻から消し忘れるとはよ!
もうこれは幻であるとしれている。防御の姿勢を取るまでもない。
十中八九、奴はすでにこの場から逃げだしている。
あれだけの攻撃を受けて、かつ、女を守りながら戦おうとするとは思えない。
けっ!同じ手を・・・!
カダマシの意識がより遠くに向く。逃げるダリたちの気配を追おうとしているのだ。カサリ、と100メートルほど先で葉擦れの音がするのを、その聴力が捉えた。
そこか!?
ダリの幻が絶え間なくその槍で切りかかってくる中、カダマシはその音がした方に向かって一足飛びに進むべく足に力を込めた。
「逃さねえぜ・・・」
足を踏み出そうとした瞬間、カダマシの背筋にピリッと感じるものがあった。
待て?おかしい・・・。刹那によぎった考え。それとほぼ同時に、両の腕が動き、目の前の『幻』の両腕をがしっと『掴んだ』。
「危ねえ・・・な」
カダマシが『ダリ』を掴むと、その他の『幻』達は空間に霧消していった。
「今度は、逃げたと見せかけて襲う作戦だった・・・か?」
そう、カダマシがその超人的な知覚力で捉えたのは、本物のダリ、だったのである。両腕をがっしりと彼の強力な膂力で圧され、さすがの天狐も身動きが取れない。その瞳に焦りの色が浮かんでいた。
「わざと右手を消し忘れたと見せかけて、幻に紛れて攻撃・・・ってか?惜しかったなあ・・・どうせ、この右手もマボロシかなんかなんだろ?茶番もこれで終わりだぜぇ!なあ、天狐様よ!」
カダマシが頭を後ろに引く。頭突きで一気に、このいけ好かない色男の顔を潰してやる・・・そう考えたのだ。
「徒花(あだばな)咲かせろや!」
カダマシが渾身の力で頭突きを繰り出していく。
だが、その時、今度は天狐がニヤリと笑った。
「主がな・・・」
「そう来なくちゃな」
奴は生きている。そして、おそらくあの女も。
変な話、良かった、とすら思ってしまった。これで女を捕らえるというミッションも果たせるというものだ。
周囲から十数体のダリが『右手』に槍を持って襲いかかってくる。
へ!随分余裕がねえじゃねえか。
失ったはずの右手を幻から消し忘れるとはよ!
もうこれは幻であるとしれている。防御の姿勢を取るまでもない。
十中八九、奴はすでにこの場から逃げだしている。
あれだけの攻撃を受けて、かつ、女を守りながら戦おうとするとは思えない。
けっ!同じ手を・・・!
カダマシの意識がより遠くに向く。逃げるダリたちの気配を追おうとしているのだ。カサリ、と100メートルほど先で葉擦れの音がするのを、その聴力が捉えた。
そこか!?
ダリの幻が絶え間なくその槍で切りかかってくる中、カダマシはその音がした方に向かって一足飛びに進むべく足に力を込めた。
「逃さねえぜ・・・」
足を踏み出そうとした瞬間、カダマシの背筋にピリッと感じるものがあった。
待て?おかしい・・・。刹那によぎった考え。それとほぼ同時に、両の腕が動き、目の前の『幻』の両腕をがしっと『掴んだ』。
「危ねえ・・・な」
カダマシが『ダリ』を掴むと、その他の『幻』達は空間に霧消していった。
「今度は、逃げたと見せかけて襲う作戦だった・・・か?」
そう、カダマシがその超人的な知覚力で捉えたのは、本物のダリ、だったのである。両腕をがっしりと彼の強力な膂力で圧され、さすがの天狐も身動きが取れない。その瞳に焦りの色が浮かんでいた。
「わざと右手を消し忘れたと見せかけて、幻に紛れて攻撃・・・ってか?惜しかったなあ・・・どうせ、この右手もマボロシかなんかなんだろ?茶番もこれで終わりだぜぇ!なあ、天狐様よ!」
カダマシが頭を後ろに引く。頭突きで一気に、このいけ好かない色男の顔を潰してやる・・・そう考えたのだ。
「徒花(あだばな)咲かせろや!」
カダマシが渾身の力で頭突きを繰り出していく。
だが、その時、今度は天狐がニヤリと笑った。
「主がな・・・」

