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天狐あやかし秘譚
第72章 侵掠如火(しんりゃくじょか)
しかし、今、彼は右腕を再生しようとしていない。
それは、彼の現在の妖力量が、底を尽きかけていることを意味している。
私を助けるために、きっと、ものすごい無理をしたんだ。

そう思うと、込み上げてくるものがある。
絶対に、絶対に来てくれる。
私を守ろうとしてくれる。

それが、私にとって、どれほど嬉しいことなのか・・・
どうやったら伝えられるのだろう?

「ダリ・・・ありがとう・・・」

麻衣ちゃんのことは気になるけれども、一旦退くのは賛成だ。敵方には、まだあの妙な筋肉ダルマと、それに、あの神出鬼没かつ底しれない能力を持つ『緋紅』がいる。

ひとりで戦うには分が悪すぎる。

今のうちに逃げよう、そう言いかけた時、ダリが短く舌打ちをした。

「追いついて来たか・・・」
ぎゅっと私を抱く腕に力がこもったかと思うと、がくんと突然のGが身体にかかる。まるで遊園地のジェットコースターが急発進したような、そんな感じだ。そして続く、急な方向転換。

1回、2回、3回

その後を追うようにドゴン、ドゴンと激しい爆音が響いてくる。その爆音の源をダリが必死に避けているということがここに来てようやくわかった。

今度は一体何!?

「貴様!よくも騙したな!!」

この・・・声は!?

ちらっと声がしてきた上空を見ると、筋肉ダルマ、カダマシが星明かりをバックに、その巨体を中に踊らせていた。

そのまま拳を振り下ろし、こちらに猛スピードで突っ込んでくる。

ドゴン!!!

先程からの爆発は、あの男の拳が地面に叩きつけられる音だったのだ。

「ひぃい!!」

人間じゃないと思っていたが、パンチひとつで地面をあれだけえぐるとか、どんな力よ!
加えて、彼の形態は今はまだかろうじて人間サイズだ。あの時の巨大化を考えると、まだ奥の手を残している、そういう状態のはず。

こ・・・これはまずいのでは?
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