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天狐あやかし秘譚
第72章 侵掠如火(しんりゃくじょか)
☆☆☆
四方八方から襲いかかる獣たちをダリは避け続ける。しかし、それもだんだん限界を迎えてきた。

というのも、彼は片手であり、私を抱きしめている以上、例の槍を振るうこともできない。それに、私がいるせいか、あまり高速に移動することもできないようだった。次第、次第に妖怪たちに追いつかれ、ついにはほぼ囲まれた状態になってしまった。

「綾音、少し・・・騒がしくなるぞ、耳をふさげ」

何?と思ったけれども、ダリのことだ、とんでもないことをするに違いない。
とにかく大人しく耳をふさぐ。

耳をふさいで、ダリの口元を見ると、小さく唇が動いた。
私がわかったのはそれだけだった。

瞬間

爆発・・・というのが最も適切な表現だった。
目の前が一瞬大量のフラッシュを焚かれたように白くなり、周囲の大気が大きく震えた。

「きゃあああっ!!」

耳を塞ぐのだけでは足りず、目をぎゅっとつむり、ダリに顔を押し当てる。多分、ダリがやったことだろうとは思うが、一体何が起こったのか検討もつかない。

遅れて身体に熱気を感じ、更に遅れて鼻につくオゾンの匂いが漂ってくる。そこで初めて了解した。

ダリが、大きな雷を落としたのだ。

恐る恐る後ろを振り返ると、あれだけの数、追ってきていた妖魅たちは一掃されており、ついでに森の木々も半径30mばかりなぎ倒されて、かなり見通しが良くなってしまっていた。ダリの出力コントロールのおかげか、山火事になるような火の手は上がっていないようだ。

「すご・・・」

耳を塞いでいたとしてもなお、まだ爆音のせいか、耳の奥がキーンとしている。感想はたった一言しか出ない。呆気にとられるとはこの事だ。

「いったん、退くぞ。綾音」

ちょっと意外だった。先程、痩せ男相手に凄んでいたのを聞いている分だけ、なおさらだった。私の知っているダリは、こういう状況では徹底的に相手を叩こうとする・・・と思うのだが・・・。

いや、例外がある。
ちらっと右腕を見る。

ダリは基本的には怪我をしてもすぐに再生する。それは彼の身体が特別製だからというのもあるが、その妖力量が莫大であるということにも起因している。その超妖力で、即座に再生を果たしているのだ。
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