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天狐あやかし秘譚
第72章 侵掠如火(しんりゃくじょか)
さすがの妖怪たちでも、あれだけの火力の雷を浴びればほぼ全滅だろう。
まずい、逃げられる!

追いかけるべきか、と逡巡する。追いかけたところで、あの狐の火力に自分が敵うとは到底思えない。さりとて、女を取り戻せなければ身の破滅は免れない。そもそも、こんなふうに躊躇している間にも、お館様の取り巻き女の一人の『遠見』の力でこの状況がすでに把握されている可能性すらある。

1秒後には、胴体と首が泣き別れ、という可能性すらあるのだ。

仕方ねえ・・・。

クチナワが意を決して、宙空を舞うことができる妖怪『野衾』(のぶすま)を召喚しようとした時、

ドゴン!ドゴン!ドゴン!

立て続けに森で大きな爆音が響いた。
それはまるで、紛争地帯でミサイルが連続着弾する光景のようだった。凄まじい火力の何かが、地面に突き刺さり爆ぜているのだ。

「な・・・なんだ!?」

白いフラッシュのような光が炸裂し、続いて爆音が響く。
そのうち、森のあちこちから火の手が上がりだし、獣や鳥たちが一斉に騒ぎはじめた。

一体何だ!?何が起こっている?
誰か、別の何かとあの狐が交戦しているのか?

燃える森を眼下に見て、クチナワはただただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
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