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天狐あやかし秘譚
第72章 侵掠如火(しんりゃくじょか)
これは、そう。ホシガリ様のとき、あの広大な浮内本家の屋敷を木っ端微塵に吹き飛ばした、雷バンバン落とすやつ・・・。

その時、私の脳裏に閃くものがあった。

「ダリ!ダメ!!」

ぎゅっと衣を掴む。突然の上がった私の声に、ダリが呪言の奏上を中断した。

「何事だ?!」
「ダメなの!ダリ!!多分、ここにはまだ・・・まだ・・・」

そう、もしかしたらこの建物の中に麻衣ちゃんがいる可能性が高いのだ。麻衣ちゃんは私達のことを敵、この男たちを味方と思っている可能性がある。つまり、この建物に、私とは別の意味で囚われていると思っていい。
それなのに、もし、あんな広範囲攻撃をしたら、彼女もまたただでは済まないだろう。彼女はきっと、カダマシ達になにか言われて、騙されているのだ。

麻衣ちゃんを巻き込むわけにはいかない。

「ふむ・・・幼子か・・・」
ダリも納得してくれたようだった。しかし、さすがに戦闘中にこの会話は悠長に過ぎたようだった。

「テメ!ふざけんな!」

痩せ男がその両の手をかざすと、たちまち2匹のイタチのようなものが飛び出してくる。ただし、イタチはイタチでも、腕が鋭い刃物のようになっていた。

「切り裂け!鎌鼬(かまいたち)!!」

男の号令で、鎌鼬はそれぞれ上下から鎌を振り上げ襲いかかってきた。ダリは私を抱えたまま、大きく左に跳んだ。

「クソ!逃げんのか!?」

左側は大きく割れた窓だった。ダリは、私を抱えたまま、躊躇なく、その桟を蹴り身を中空に踊らせる。

「ちょ!ダリ!ここ・・・!?」

中空に浮いた私は慌てて下を見る。どうやら私がいたのは、廃墟のようになっているホテルの5階だったみたいだ。夜の闇の中、躍り出ると、支えのない私たちは当然、重力に従って落ちるわけで・・・

「ぎゃああああ!!」

叫ぶ私にダリは「何ぞ叫ぶ・・・あやなきこと」と涼しい顔だ。そりゃ、あんたはそうでしょうけども!!
私は咄嗟にダリにしがみつく。大丈夫だとはわかってるけど、怖いものは怖い!!

地上に落ちる寸前に風が舞い上がり、私とダリをふわりと減速する。トン、とダリの足が地面につくと、彼はすぐにそれを強く蹴り、さらに森に向かって跳躍した。

トトトトトン!
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