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天狐あやかし秘譚
第66章 奸智術数(かんちじゅっすう)
つまりは、この部室は僕達専用の逢引スペース、になっているような状態なのだ。
沙也加はストレートの髪を肩まで伸ばしている。少し大きめの瞳で、笑顔が可愛らしい女の子だ。本人は言うと嫌がるのだが、唇の左下にあるほくろが、なんとなくチャームポイントのような気がする。

そんな愛くるしい女性なので、男子からはトップクラスの人気があった。ご多分に漏れず、僕も彼女に一目惚れ状態だったわけだが、同じクラスであるにも関わらず、彼女に話しかけることができなかった。

自慢じゃないけれど、僕は顔の造作がそれほど良くはない。そして、身体がたくましく、運動がすごく得意ってわけでもない。どちらかというと屋内でゲームをしたり、本や漫画を読んだりという過ごし方が好きで、ひょろっと青白い感じの・・・いわゆるナヨ系の男だった。

加えて、小学校時代に激しくはないが、若干いじめというか、いじりみたいなことをされて以来、人と交流するのもあまり好きではなくなってしまっていた。

要は自分に自信がまったくなかったのである。勉強はそこそこできたのだが、このくらいの年代では、それは決して『モテる』要素にはなり得なかった。なので、植草沙也加に近づくなど、夢のまた夢、と思って半ば諦めていた。

しかし、転機が訪れた。
先述した通り、うちの学校はひとり必ずひとつ以上の部活に所属することと決められている。なので、僕も入らないわけにはいかなかった。そこで僕が選んだのは、「雑文同好会」だった。運動が苦手で人付き合いが苦手な僕は、なるべく屋内で過ごし、かつ静かにいられそう、という、ただそれだけが選択の理由だった。

『あ!同じクラスだよね?』
だから、初めて同好会の部室を訪れたとき、植草沙也加がいたときには心臓が止まるほどびっくりした。容姿に全く自信がない僕にすら、あの天使のような微笑みを投げかけてくれていた。同好会の活動を通じて、僕はますます沙也加のことが好きになった。

そして、その変化は彼女の側にも起こったようだった。1年間、活動を共にするうちに、彼女もまた、僕のことを知り、あしからず、と思ってくれたようだった。今年の2月、人生最大の勇気を振り絞って僕の方から告白をし、色よい返事をもらうことができた。そして晴れて正式に僕らは『恋人同士』ということになったのである。
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