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天狐あやかし秘譚
第66章 奸智術数(かんちじゅっすう)
今でも、信じられないほどの幸運だった。

「ねえ、雄一くん?」
そんな事を考えていたら、また沙也加に声をかけられてしまった。

「あ、ご、ごめん」
沙也加に勧められ、正面の椅子に座る。沙也加はすでに水色のルーズリーフを広げて、シャープペンシルで文章を書いているようだった。ちらっと見ると、先週から着手している掌編小説、のようだった。

構想を前に聞かせてもらったことがあった。

『主人公の男の子には他人が心の傷が、まるで身体に負った傷のように視えるの。
 それで、その子が色んな人に出会う中でいろんなことを感じて、成長していく、そんなお話』

確かタイトルは『Injured heart(傷つけられた心)』だったか。ちょっとSFのような、不思議な話。彼女の好きなジャンルだった。

「書けてるの?」
声を掛けると、彼女は曖昧に頷く。あんまり捗っていないのかもしれない。
「うん・・・まあまあ。雄一くんは?」
僕は、別に沙也加ほど『書きたい』人ではないので、実はそれほど熱心ではない。それに、沙也加と違って二次創作も含めて、創作はあまり得手ではなかった。

「うん、まだ何を書くか考え中」
文章を書くこと自体はできるのだが、肝心の「書きたいもの」がない。それでも去年の文化祭のときは、同好会員は会誌『ざつぶん』にひとり一編以上の寄稿が義務付けられていたので、なんとか『日本の神話』についての簡単な論説文みたいなのをひねり出した。

我ながら、調べ学習みたいだなと思ったが、これくらいしか書けないので仕方がない。

「雄一くん、意外と謎解きとか好きだから、ミステリーとか書いてみたらいいのに」
沙也加はそんなふうに言うが、登場人物の性格とか考えたり、情景描写したり、伏線はったり・・・創作は考えることが多すぎて僕には無理だと感じる。

素直にそれを告げ、沙也加はすごいなあと言うと、彼女はちょっと照れたように笑った。
「雄一くんだけだよ。すごいって言ってくれるの」
「僕にはできないもの。今書いてるやつも、もし書けたら見せてくれる?」
「うん、雄一くん、貴重な読者だし。意見もらえると嬉しいな。」

そんなことでいいなら、いくらでもやるよ、と心の中で思う。
僕は自分の文章をあまり人に見られたくない、人に評価してほしくないと思うというのに、彼女は進んでそれができる。
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