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天狐あやかし秘譚
第128章 悲歌慷慨(ひかこうがい)
☆☆☆
『屋敷』の奥の間。窓がなく、陽の光の差さないこの部屋では、昼も夜も判然としない。そもそも、この『屋敷』がある場所自体が、昼も夜もないのだが・・・。

キヌギヌが桃色の巫女服を着て控えている。上の間の座椅子には緋紅が座り、従者から提出されたレポートを読んでいた。

キヌギヌから見て、緋紅の背後の壁には、いくつもの神宝が掲げられていた。
品々物之比礼、八握剣、足玉、そして・・・姉であるスクセが使っていた沖津鏡。

使い手がいる蜂肩巾と辺津鏡、そして、道返玉はそれぞれの神宝使いが所蔵しており、残りの蛇肩巾、生玉、死返玉は現在、陰陽寮に奪われていた。目下の緋紅の関心事はそれら三つの神宝の奪還にあるようだった。

――あいかわらず計画の詳細を知らせてくださることはないけれども・・・

キヌギヌが姉の死を正式に知ったのは3日前だった。やはり従者の報告で、スクセ・・・水無が京都宮内庁病院で亡くなり、葬儀が執り行われたことを知ったのだ。別に涙が出ることもなかったし、悲しいとも思わなかった。ただ、自身の右手にいつもいた同じ顔の人物がいないことは、なんだか妙なアンバランスさを感じさせた。

「うん、分かったよ。引き続き動きを把握しておいてくれ。・・・役に立つかもしれないね」

黒子のような格好をした従者が下がっていく。この『屋敷』では、神宝使い以外の人間にはほぼ『個性』が認められていない。認められていないと言っても、別にそういう明文化されたルールがあるわけではなく、可能な限り機械のパーツのようにしていなければ、いつ緋紅の怒りに触れて殺されるかわからない環境から、必然的に個性を殺していくことになるのだ。

『大和の民なんていくらでも替えが効くからね』

それが緋紅の言い分だった。

――でも、私は違うわ。

キヌギヌは思っていた。神宝使いは選ばれた人間・・・いや、そもそも、あれら大和の民とは異なる存在なのだ。

姉が死んだと聞いたとき、緋紅がそれを憂いた表情をした。それはキヌギヌにとってとても意外なことだった。神宝使いとは言え、姉は緋紅を裏切ろうとしたのだ。その事も伝えてある、なのになぜ?

若干、怖かったもののそのことについて、キヌギヌは緋紅に尋ねてみた。

『君たちと大和の民は全く違う・・・君たちは僕と同じ血族・・・中原の民の生き残りなんだよ』
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