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天狐あやかし秘譚
第128章 悲歌慷慨(ひかこうがい)
☆☆☆
「土門!」
ダリの声にハッとした土門が、声のする方を振り返る。その拍子にひねった身体の脇を何かがざっと通り過ぎるのが分かった。最初はうっすらとした影のようにしか視えなかったが、土門が夜魂蝶を呼び寄せることで、その姿が浮かび上がってきた。
――キヌギヌ!
桃色の巫女服を着た女性が短刀を真っ直ぐに突き出していた。その手こそ震えていたが、表情は夜叉のようであり、そこに確かな殺意があるのを感じさせた。
敵わないと思ったのだろう。キヌギヌは土門が反応するよりも早く、弾かれたように森へ向かって走り出す。しかし、それよりもダリの判断のほうが早かった。
ピシッ!
まるで雷光が宙を渡ったかのような乾いた音がしたかと思うと、つい一瞬前まで私の背後にいたはずのダリが、森に逃げ込もうとするキヌギヌに立ちふさがるかのように先回りしていた。身体には術の残滓か、まだパチパチと小さな青い稲妻が弾け続けていた。
ダリにとっては必勝の、キヌギヌにとっては絶望の配置。自らの術に落ちた人間を人質に取るという方法が取れない彼女には、もはやダリに対する対抗手段はないと思われた。
しかしそこで、彼女は驚くべき行動に出る。辺津鏡を取り出すと、ダリに向けて力を放ったのだ。そこから溢れ出す赤い光は、素人である私の目から見ても凄まじいまでの力を有しているのが見て取れた。
「天狐ぉ!」
これまでのゆとりのある声とは一転した断末魔にも似た叫び。
辺津鏡からあふれ出した呪力を帯びた赤い光が周囲の情景を血のような朱色に染めあげた。
「ダリ!」
何ができるとは思えないが、私の足は自然とそちらに動いていた。ダリは今考えれば、彼女の持つ武器、神宝・辺津鏡の破壊を試みようとしたのだろう。自らの持つ天魔反戈を振り上げ、神速の突きを放っていた。
あっ!
本来は、ダリの槍はキヌギヌの持つ鏡を打ち砕く、もしくは、弾き飛ばす結果になったに違いない。しかし、そこに割って入った人物がいた。
「水有!!」
気づいた時は何もかもが遅かった。私の背後、御池の足元で崩れ落ちていたはずのスクセが、走り寄り、ダリに向かって両手を広げて立ちふさがった。そして、そのままダリの槍に腹を貫かれたのだ。
「土門!」
ダリの声にハッとした土門が、声のする方を振り返る。その拍子にひねった身体の脇を何かがざっと通り過ぎるのが分かった。最初はうっすらとした影のようにしか視えなかったが、土門が夜魂蝶を呼び寄せることで、その姿が浮かび上がってきた。
――キヌギヌ!
桃色の巫女服を着た女性が短刀を真っ直ぐに突き出していた。その手こそ震えていたが、表情は夜叉のようであり、そこに確かな殺意があるのを感じさせた。
敵わないと思ったのだろう。キヌギヌは土門が反応するよりも早く、弾かれたように森へ向かって走り出す。しかし、それよりもダリの判断のほうが早かった。
ピシッ!
まるで雷光が宙を渡ったかのような乾いた音がしたかと思うと、つい一瞬前まで私の背後にいたはずのダリが、森に逃げ込もうとするキヌギヌに立ちふさがるかのように先回りしていた。身体には術の残滓か、まだパチパチと小さな青い稲妻が弾け続けていた。
ダリにとっては必勝の、キヌギヌにとっては絶望の配置。自らの術に落ちた人間を人質に取るという方法が取れない彼女には、もはやダリに対する対抗手段はないと思われた。
しかしそこで、彼女は驚くべき行動に出る。辺津鏡を取り出すと、ダリに向けて力を放ったのだ。そこから溢れ出す赤い光は、素人である私の目から見ても凄まじいまでの力を有しているのが見て取れた。
「天狐ぉ!」
これまでのゆとりのある声とは一転した断末魔にも似た叫び。
辺津鏡からあふれ出した呪力を帯びた赤い光が周囲の情景を血のような朱色に染めあげた。
「ダリ!」
何ができるとは思えないが、私の足は自然とそちらに動いていた。ダリは今考えれば、彼女の持つ武器、神宝・辺津鏡の破壊を試みようとしたのだろう。自らの持つ天魔反戈を振り上げ、神速の突きを放っていた。
あっ!
本来は、ダリの槍はキヌギヌの持つ鏡を打ち砕く、もしくは、弾き飛ばす結果になったに違いない。しかし、そこに割って入った人物がいた。
「水有!!」
気づいた時は何もかもが遅かった。私の背後、御池の足元で崩れ落ちていたはずのスクセが、走り寄り、ダリに向かって両手を広げて立ちふさがった。そして、そのままダリの槍に腹を貫かれたのだ。

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