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天狐あやかし秘譚
第128章 悲歌慷慨(ひかこうがい)
辺津鏡が放つ禍々しい赤光に照らし出された彼女の青い衣は、鮮やかな桃色に染まっていた。その背から突き出たダリの槍撃が散らした鮮血の量は、その傷がもはや致命傷であることを周囲に悟らせた。

「ダリィ!!!」

自分が上げた声なのに、まるで夢の中で叫んだように現実感がなかった。背後で聞こえる御池と土門の声も、まるで水中で聞いているようだった。

「早く!止血を!」
「本部に連絡をするのです」
「早く、早く!!」

崩れ落ちたスクセの身体をダリが受け止め、手をかざして治療用の妖力を注ぎ込んでいるのがわかる。辺津鏡を取り落としたキヌギヌは、その傍にふらふらと歩み寄っていった。

倒れたスクセが、キヌギヌに手を伸ばし、何事かを告げていた。しかし、彼女の目から落ちた涙が地面に溢れたとき、私は信じられない光景を目にしたのだった。

――嗤っている

キヌギヌが立ち上がり、狂ったような哄笑を上げた。

「なんで・・・?」

スクセは涙を流していた。
妹を助けてくれと、私達に頭を下げて、
そして今も、妹が殺されると思って、その身を呈して守った・・・なのに・・・

なのに、なんでこの人は・・・
こんなにも愉しそうに嗤っているの!?

とにかくやめさせたくて、肩にかけた手が乱暴に振り払われる。

「馬鹿な姉」「緋紅様は私のもの」
「鏡なんだ、逆なんだ、映ってる全てが!」

断片的な言葉、キヌギヌもまた混乱しているのだと思った。
しかし、最後の言葉を聞いた時、私の脳は一瞬で沸騰した。

「お姉ちゃんは、自分の嫉妬が原因で勝手に死んだんだ!」

「違う!」
叫んでいた。そうじゃない、そんなわけがない。
あのスクセの涙は本当だった。
それを・・・それを!!

肩がわななき、足が震えた。涙が、自然と溢れていた。

「スクセは・・・あなたのお姉ちゃんは、あなたを助けるために私達に頭を下げた。泣きながら助けてほしいと言っていた!あなたを助けるために!!」

あなたの鏡なら、その心がわかるはずじゃない!?
そうも思った。心の内を見ることができる鏡・・・そんな物を持っていて、なんで実の姉の心すら知らないんだ!

ところが、一瞬、私の言葉に気圧されたように見えたキヌギヌは、すぐに蔑むような視線を向けてきた。

「何言ってるの?お姉ちゃんの心の中、そんな気持ち、ひとつもなかったわよ」
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