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天狐あやかし秘譚
第127章 有為転変(ういてんぺん)
傍らでは御池がもう一度、姉を縛り上げようと麻紐を取り出している。土門の方は再び何頭かの夜魂蝶を勧請している。

あと・・・5メートル

術の効きが悪いかもしれない。できるだけ夜陰に乗じ、静かに近づく必要がある。足音ひとつでもバレる可能性がある。

あと、3メートル

短刀の柄を両手で握りしめ切っ先を土門の脇腹に向ける。急所を一撃で・・・そう狙いを定める。

あと、1メートル・・・

今だ、と考えて飛びかかろうとした、その時だった、

「土門!」

森の方から天狐の声がした。土門がその声に反応し、態勢を変える。狙いがそれた私の刃は土門の衣を切り裂くにとどまった。

「な!」

驚いた土門が自分の周囲に夜魂蝶を呼び寄せた。高密度の夜魂蝶の力により呪力がジャミングを受け、私の姿がまたしても闇の中に浮かび上がってしまう。

もう少しだったのに!

天狐がこちらの小細工に気づいて戻ってきたのだ。こうなったらもうダメだ。罰を受けることを覚悟で、逃げることに徹するしかない。

私は踵を返して森に駆け込もうとする。一旦闇に紛れてしまえば、また知覚を操作して逃げ延びられる・・・そう考えたのだ。

しかし、甘かった。

シュン!

一瞬だった。私の目の前に雷を体にまとった天狐が立っていた。これほどの速さで動いてくるとは・・・。

こうなったら!

私は刀を捨て、辺津鏡を取り出す。そして、ありったけの生命力をそこに込めた。

生命が多少削れたとしても構うものか、
最大出力で天狐の精神そのものを破壊してやる!

「天狐ぉ!!!」

雄叫びとともに辺津鏡に呪力が流れ込み、その術の発動に伴って鏡面から赤色の光が溢れ出す。その私の動きを受け、天狐が反撃をするためにその槍を振り上げ、私に向かって突き立てようとしてきた。

――やはり・・・間に、合わない!

そんな思いが頭をよぎった、その時だった。

「水有!!」

姉の、声がした。

すべてがスローモーションに見えた。天狐の槍が空を切る。私の辺津鏡が放つ赤い光が夜を照らす。そして、私と天狐の間に青い巫女服の姉が割り入ってきた。

ズブッ
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