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天狐あやかし秘譚
第127章 有為転変(ういてんぺん)
☆☆☆
【ダリが幻影のキヌギヌを背負った御九里を追って行ったのと同時刻、円形の広場にて】

天狐がまんまと御九里を追って森に消えていった。私は周囲に舞い散る夜魂蝶とかいう式神の力が弱まった隙を見て、再び知覚を歪め、御九里に背負われたと見せかけたのだ。

実際、私自身はまだ広場にいる。だが、ほぼ手詰まりの状況は大して変わってはいなかった。

先程の御九里の一撃で大分いなくなったとは言え、まだまだ周囲には大量の夜魂蝶が舞い狂っており、この状態ではほとんど洗脳効果を発動することができない。かろうじて発動している知覚を歪ませる術も、いつ解除されてしまうかわからない状態だ。

『逃げるしか・・・ないのか・・・』

歯噛みをする。八握剣と姉の沖津鏡は御池とかいう陰陽師の足元にある。私の術がほぼ効かない式神もそこを守っているので、神宝を取り戻すこともできない。先ほど未架神と入れ替わった綾音の姿も見えない。おそらくどこかに隠れているのだろうけど、それを探すことすらままならない。

天狐こそいないが、あの奇妙な女陰陽師、土門が油断なく辺りを警戒している以上、迂闊な行動は取れそうにない。

しかし、なんの成果もなく屋敷に戻ったら、たとえ生きて帰れたとしても、私は緋紅様に罰せられてしまう・・・下手したら・・・。

ゴクリと息を呑んだ。

屋敷の地下に広がる牢獄――屋敷では『カクリヨ』と呼ばれている――の情景が脳裏をよぎる。たまに呼び出され、緋紅様の回復のための贄にされたり、屋敷を訪れる政府の有力者に対する性接待に供されたり・・・それならまだマシだ。かつてのヤギョウのような異形に犯させることに使われるかもしれない。

せっかくあの地獄から、ここまで這い上がったのだ。
今得ているmこの最も居心地の良い場所を手放してたまるものか。

『せめて・・・陰陽師ひとりだけでも・・・』

知覚の隙をつけば、ひとりくらいなら陰陽師を葬れるかもしれない。
そして、殺すとすれば綾音がいない以上、一人しかいない。

『貴様だ・・・土門!』

万が一にと懐に携えた短刀を引き抜く。周囲を飛び交う夜魂蝶がどの程度探査能力を持っているかわからないが、一定程度なら意思あるものの知覚を歪めることができるのが私の辺津鏡の基本的な能力だ。・・・ゆっくりと近づけば・・・殺れる。そう、確信していた。
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